vol-1050:求職者のスキルに頼る前に経営スキルを磨け
更新日:16 時間前
リクルートでは、人材と仕事を考える際に、「WILL/CAN/MUST」という分析手法がある。各々、WILLは「やりたいこと、意思・希望」を、CANは「できること、能力・スキル、才能、実績」を、MUSTは「やらねばならないこと、求められていること、期待・責任」を指すが、「MUST」すら完璧にこなせない人材が、「WILL」を求めて、転職に期待を賭けてもうまくいくわけがない。現在は、「CAN」の一要素である「スキル」にスポットライトが当たっている(というよりも、スポットライトを当てすぎである)が、「職場のチームにおけるフィット感(=チームインテリジェンス)」を無視したスキル論に大した価値はない。
実際、経営の現場では、『人を使うというときにはどうしても“粒より”ばかりというわけにはいかない』(松下幸之助:松下電器創業者〈現パナソニック〉)という現実に直面する。「現状の戦力で最大の成果を実現する」ことが経営者の仕事である。
だから、世に知られる名経営者たちは、異口同音に「学歴や学業=スキルセット」の重要性を否定し、「使われる人材」よりも「使う経営者」を問題視する。そもそも使ってみるまで、その人材の本当の価値はわからない。イオンを創業した岡田卓也も『どんな人間でも一つは得手をもっている。そこに光を当てれば思いがけない能力を発揮することがある。それはやらせてみないとわからない』と語った。偉大な企業を育て上げた創業者の多くは、同様の箴言を残している。
出身校とか、学校の成績は関係ない。人には得手なことと不得手なことがある。人を生かすには得手なことをやらすことでんな。大事なことは、だれにどの仕事をどこまで要望するか。それが人を用いるうえで肝心なことや。ありゃ使いものにならんと言うてんのは、使う人が使いものにならんからや。人はみな人材です。(松下幸之助:松下電器創業者〈現パナソニック〉)
入社試験の面接で、私は“暗い感じ”の人をまず除外する。・・・青白きインテリはもっと困る。さらに手に負えないのは“大学卒”という看板で世の中を渡れると思っている連中だ。ソニーに入社したら学歴はいっさい無視する。・・・会社は学者を養成する機関ではない。(盛田昭夫:ソニー創業者)
大学出は、仕事を守っていくことはできても、新しいものを創造していくことはなかなかできない。(中内功:ダイエー創業者)
じつのところ、松下幸之助のような考え方は、有能な経営者であれば、日本人でなくとも弁えており、類似の発言をしているものだ。ちなみに、ITTを世界有数のコングロマリットに育て上げたハロルド・ジェニーンは、従業員の能力を判定することの難しさを認めた上で、『ビジネスにおける最大の偉業は、人生のほとんどあらゆる場面におけると同様、天才によってではなく、平凡な普通の男女によって成し遂げられる』と述べている。パナソニックを創業した松下幸之助と同じように、経営者であれば、「使う人の質やレベル」を云々するのではなく、「人の使い方」をもっと考えろ、と諭しているのである。
立派な人、賢い人ばかりを集めたからといって、必ずしも物事がうまくいくとは限らない。反対に平凡な人たちでも組み合わせよろしきを得れば、非常な成果があがる。そうした人の組み合わせの妙というものを指導者は知らなくてはならないと思う。(松下幸之助:松下電器創業者〈現パナソニック〉)
ITTで人びとの能力を判定する方法として私が知っていたのは、実際によるテストだけだった。私はその人物に仕事をさせ、どんな風にやるかを観察した。頭脳と勇気は判定基準の一部をなすにすぎなかった。その人物の判断、行動、態度、努力、客観性、その他多くの資質も、同じぐらい重要だった。それらを勘案したあとでも、なお完全には確信がもてなかった。あらかじめ定められた方式で人を判断しようなどとは、考えたこともなかった。(ハロルド・ジェニーン:ITT元CEO)
レギュラーとしては少し力が不足しているかなと思う選手や、ある一点において突出した能力を持っているような選手の場合、個性の異なる選手と組み合わせることで、非常にいいパフォーマンスを発揮することがある。(西野朗:サッカー日本代表監督)
アップルを創業したスティーブ・ジョブズですら、『即戦力になるような人材なんて存在しない。だから育てるんだ』と明言しており、名経営者として名高いハロルド・ジェニーンも、『あらかじめ定められた方式で人を判断しようなどとは、考えたこともなかった』と述べている。求職者の「スキル」に焦点を当てすぎると、意外にベストの人材を雇い損ねるものだ。
「スキル」の重要性は否定できないが、ストライクゾーンをある程度広く取り、経営者であれば、「採用」だけに頼らずに「経営スキル」で「ベスト」を実現するつもりで、広く人材を募るべきである。



