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vol-214:入管法を知らない警察官から自分自身を守る

2018年7月31日
読了時間: 7分

更新日:5 日前

  • 私たちは、一般的に、取り締まる立場にある警察官は、逮捕する根拠となる法律や関連実務に詳しいと思いがちですが、入管法に関する限り、そんなことはありません。

  • ある日の夜10時頃、携帯電話に、突然、申請人から電話がかかってきました。話を聞いていると、どうも警察官から「職務質問」されて、困ってかけて電話してきたようです。その申請人は、「留学」から「経営・管理」に在留資格を変更するために申請中であり、「在留カード」上の「在留期限」は切れているものの、2ヶ月の「特例期間」の範囲内で、合法に日本で在留しているベトナム人でした。

  • 申請人に代わって、職務質問している警察官が電話に出てくれたので、申請人の現状について説明したのですが、なかなか理解してくれません。「警視庁第一自動車警ら隊」に所属している方(以下「警」とする。)なのですが、パトカーや白バイでパトロールすることが主たる任務なので、入管法には詳しくないようです。以下に会話の概要を記します。


    ―― 何か問題がございますか?

    (警)「在留カード」の期限が切れているんですよね。

    ―― 入管法上、申請後に認められている2ヶ月の「特例期間」中ですから、何ら問題ないと思いますが。

    (警)でも、「カミ」を持ってないんだよね。

    ―― それは、入管から受領する「受付票」のことですか? 

    (警)そう、それそれ。

    ―― ただ、「受付票」は携帯義務がありませんよね。在留カードの裏面に「申請中」の印が押してあったらいいのではないですか? 「在留カード」を持っている場合、旅券の携帯義務は免除されますし・・・。

    (警)ただ、本人は、入管から「カミ」をもらったことはないっていうんでね。

    ―― 取次の行政書士の先生が、本人の代わりに申請して、代わりに受領しているので、勘違いしたのかもしれませんね。

    (警)そこが疑わしいんですよ。

    ―― ちょっとお尋ねしますが、「在留カード」は、確認されましたよね。

    (警)確認しましたよ。それが、「在留期限」が切れているんだよね。

    ――「在留期限」は切れているのではなくて、「特例期間」中なので、申請すれば、2ヵ月延長されるわけですから、法律上まったく問題ないわけですが、その「在留カード」自身に疑義があるのですか?

    (警)いや、そんなことはないよ。本物だとは思うけどね。

    ―― 偽造カードではないと認めていただけるんですね。

    (警)偽造ではないと思うよ。

    ―― それであれば、裏面の「申請中」の押印も「真正」のものですよね?

    (警)そこがね。本人が入管から「カミ」をもらってないと言っているからねぇ。疑わしいでしょ。

    ―― 何が疑わしいんですか?

    (警)その「申請中」っていうハンコが疑わしいでしょ。「申請中」の「カミ」を持っていないんだから。

    ―― もう一度、確認しますが、「在留カード」は「真正」のものですよね。

    (警)そうだね。

    ―― だとすると、裏面の「申請中」の押印も「真正」なのではないですか?

    (警)そこが「カミ」がないからね。しかも、本人が「カミ」をもらったことがないというからね。

    ―― ご主張は理解しました。それで、何が問題なのでしょうか? その人は、何か犯罪を犯しているのですか?(注) (注)警察官職務執行法上、警察官の「職務質問」は、「異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者又は既に行われた犯罪について、若しくは犯罪が行われようとしていることについて知っていると認められる者」(第2条第1項)に対してしか適用できず、「必要な最小の限度において用いるべきものであつて、いやしくもその濫用にわたるようなことがあってはならない」と定められています(第1条第2項)。

    (警)要するに、「疑わしい」ってことなんだよ。

    ―― 警察の方なので、法令にはお詳しいとは思いますが、念のために確認しますと、「在留カード」には携帯義務はありますが、申請の「受付票」については携帯する義務がありませんよね。そして、「在留カード」の裏面には、「申請中」の押印がしてあり、「在留カード」自身は、「偽造ではない」と認めていらっしゃいますよね。そうですよね。

    (警)それはそうだが、「カミ」を持ってないからね。

    ―― 大変恐縮ですが、下のお名前も教えていただけますか、万が一の時には、然るべき筋を通して、お話ししなければならないので・・・。

    (警)警視庁「第一自動車警ら隊」の ●●●●。

    ―― すいません。漢字ではどう書けばいいですかね。

    (警)●は・・・・、●は・・・・(と漢字を説明)。

    ―― 大変申し訳ないのですが、識別番号(警察官が制服の胸部などに着用する「識別章」に表示されている番号。個人を特定できる)を教えていただけますか? (警)▲▲▼▼▼。

    ―― ありがとうございました。それで、本人を解放するには、具体的に何をすればよいですか?

    (警)解放するも、何も、話を聞き始めたばかりなんでね。すぐに解放というわけにはいかないなぁ。

    ―― もう夜も遅いですし、取り調べが必要であれば、明日の午前中にでも出向かせますし、何でしたら私も同席いたしますが・・・。氏名も、住所も、電話番号も、わかっているわけですから、いかがでしょうかねぇ。とりあえず、解放していただいて、明日にお話しすることでは・・・。

    (警)そうは言っても、私もね。何もせずに、そのまま帰すってわけにはいかないんですよ。

    ―― よく、わかりました。それでは、事情は理解しましたので、なるべく早く帰してあげてください。よろしくお願いいたします。

  • 私が電話を切ってから、5分後に申請人本人から電話がかかってきました。ようやく警察官から解放されたのですが、結果的に1時間以上もいじめられました。本当に怖かっただろうと思います。

  • この事件は、いかに、警察官が入管法の条文や申請実務を知らずに、外国人を取り締まっているかがよくわかるエピソードです。その警官は、

    ① 「特例期間」のことを知らず、

    ② 申請中の場合、「在留カード」の裏面に押印されることも知らず、

    ③ 押印された「在留カード」の実物を見たことがなかった、

    ということだったのだと思います。おそらく、

    ① パトロール中、夜中にふらふらしている外国人を見かけた、

    ② 在留カードを提示させたら、「在留期限」が切れている、

    ③ 「やった。これで逮捕1件だ」と思い込んだ、 ということなのでしょう。

  • ちなみに、元警部の方にコンタクトを取って、上記のやり取りのことを話したところ、こう証言していました。

    ① 外国人犯罪や入国管理法担当の警察官でなければ、「在留カード」の期限しか見ず、「申請」などというものを理解していない者が多くいます。中でも外を回っている、階級も下の制服警察官は、「在留カードが本物かどうか」の程度しか知りません。

    ② 今回、「職務質問」を受けた外国人は言葉使いが悪いか、生意気か、服装が派手か、日本語が下手であったものと思います。そんな中、その警察官は、自分に知識もないのに執拗に「外国人が何かの犯罪をしているもの」と疑い、「何らかの犯罪で逮捕出来るのでは」と思って、質問を続けたものと思われます。その外国人が、自分の申請内容や「受付票は行政書士が持っている」などをちゃんと答えて毅然とした態度を取らなかった、ということも要因の一つだと思います。

    ③ 制服警察官のほとんどは、「入管法」や「特別法」などの知識がなく、「刑法」の一部しか知りません。時々、制服警察官に色々教養するのですが、道交法や殺人・障害・窃盗に関する刑法を除けば、素人に毛が生えた程度というのが実情です。

  • 実際、警察官が対応している「犯罪」の3分の2は、「交通違反」で占められています。それに続く、万引きなどの盗みを含む「窃盗」が10%、人を殴ったなどの「傷害」が4~5%、麻薬などの「薬事関係」が2~3%、「入管法違反」は0.5%にすぎません。したがって、警察官が入管法の細かなところまで知らなくとも仕方がありません。

  • 実際、日本には、政令や府省令等を含まない法律だけで2,000以上あります。その全部を警察官が勉強しているはずがないですし、理解しているはずもないのです。だから、現実的には、「なぜ法律を知らないんだ」と警察官を責めるわけにもいきません。

  • しかし、法律を適用される立場の私たちは、「法律をすべて知っている」という前提で、取り調べられ、時には逮捕されて、裁かれるという立場にあります。「それは不公平じゃないか」と思われるかもしれませんが、それが不条理な現実です。だからこそ、自分の身を守るためには、法律に関する「実戦的な知識」が必要なのです。法律を知らない警察官から理不尽な追及をされても動じることのないように、自分を守るための法律の知識を身に付けておかなければならないのです。

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