vol-584:大企業は中小企業より効率性が高いとは限らない
更新日:9月25日
ユニクロは1994年に上場を果たした後に失速。この局面について、創業者の柳井正は、「この頃から大企業病が見え始めてきたんです。組織が大きくなるとやはり大企業病になる。だから、それを潰す。アントレプレナーはそれをやる」と語っている。当時のビジネスモデルは、ユニクロを創業したときに、柳井正が見出した「ダイエーのような服の総合スーパー」というものであり、柳井自身「金の鉱脈を発見した」と大喜びしたコンセプトだったが、柳井正は、この「金の鉱脈」(「服屋のダイエー」=いつでも誰でも好きな服を選べる巨大な倉庫)を棄てて、ゼロから創り直した。しかし、こういうケースは極めて稀である。
『気になっていたのは大企業病だ。やはり本部に閉じこもっていると、どうしても自分の立場からしか仕事をしなくなるし、現場のことが意識から遠くなる。社員も本部志向が強まってしまう。官僚的になってしまうことに危機感はあったが・・・妥協していた。そこで本部社員には週5日のうち、土日は店舗で働いてもらうことにした。ニトリでは6年たてば、本部から現場で働く「配転」をしている。・・・会社の敵は惰性であり、思考停止だ。まず店舗勤務を増やし、課題はそれから考えればよい』 (似鳥昭雄:ニトリ創業者)
昨今の日本では、アトキンソンの主張に騙されて、『日本は規模が小さな企業が多いので生産性が低い』という俗説がまかりとおっているが、『組織が大きくなると、官僚主義、縦割り主義などの弊害が起きやすい。大企業病にかかると、組織の維持を優先し、顧客の期待を後回しにするため、いずれ利益率が落ちてきます』(大山健太郎:アイリスオーヤマ創業者)というリアルな組織論を無視している。規模が大きくなれば、知名度や人材の頭数や財務体力で優位になることは事実であるが、『大きな組織になるほど、船頭多くして船が動かなくなる』(安藤百福:日清食品創業者)と指摘されるように、「大企業病」という悩ましい問題が必ず発生する。
『組織が大きくなれば、現実問題として役割分担をしなければならなくなる。けれど、役割分担がしばしば行き過ぎる。企業が大きくなればなるほど、この傾向は強くなる。その結果、社員は自分の与えられた役割をこなすのが仕事で、その役割以外のことをするのは間違いだとすら考えるようになる。実際に、ほとんどの大企業がそうなっている。それこそが、いわゆる大企業病の根源だ』 (三木谷浩史:楽天創業者)
『会社やお店が大きくなると、経営者も社員もだんだんと態度が横柄になる、傲慢になる。どうすればそれを防げるか。やり方はいろいろあるやろうけど、とにかく会社のなかに不安定な部分をどうやって創りだしていくかということやね』 (松下幸之助:松下電器創業者〈現パナソニック〉)
実際、経営学では、「規模の不経済」が働くことが広く知られている。企業規模が大きくなると、官僚主義、事なかれ主義、セクト主義に陥り、現状維持を好み、変化を嫌うようになるからだ。京セラを創業した稲森和夫は、『大企業病とは、考えない社員が増えることである』と喝破していたが、英国の進化生物学者ロビン・ダンバーは、社会的動物の群れの規模と大脳皮質の大きさとの間には相関関係があるという仮説の下に、人間の集団において、基本となる規模を「150人」と推計。こうした研究から、「人間が自然な形でグループを作り維持するとき、そのグループの規模は100~150人」と言われている。逆に言えば、大きく「200人」を超える大企業の場合、組織運営において、細心の注意が必要になってくる。
『どの企業も、もともとは何かしらの事業を顧客に提供したくて組織をつくったはずです。組織を存続するために事業を開始した会社は一つもない。しかし長く経営を続けていると、組織が事業をするための手段ではなくなり、組織を維持することが目的で、事業がその手段になるという逆転現象が起きやすくなります。それは結果的に組織をむしばんでいるのです』 (大山健太郎:アイリスオーヤマ創業者)
フランスの農学者マクシミリアン・リンゲルマンが、被験者に綱引きをさせて、引っ張る力を計測したところ、1人のときは最大限の力を発揮するのに、2人になると一人あたりの力は93%に低下し、3人以上になるとさらに減少。8人になると一人あたりの力が50%まで低下することを発見。この現象を「リンゲルマン効果」と呼び、心理学ではこの現象を「社会的手抜き効果(social loafing)」だと説明する。集団で作業するときに、個人が単独で作業する場合に比べて努力の程度を弱めてしまう現象のことを指すのだが、責任の拡散(自分がやらなくても他の人がやる)、成果の匿名性(自分の貢献が目立たない)、動機づけの低下(努力しても報われない感覚)などが原因と考えられている。大企業では「社会的手抜き効果」が最大限に発揮される。
要するに、アトキンソンが唱えている「大企業は中小企業よりも効率性が高い」という主張は、あまりにも幼稚な論理に基づくものなのである



