vol-611:失われた30年を招いたのは改善のこだわりだった
多くの日本の大企業が「失われた30年」に陥ってしまった原因は、あまりにも、主要顧客が求める「改善」にこだわってしまったために、自らを「イノベーション」に投ずることができずに、潜伏している開拓すべき巨大な顧客ニーズを深堀できなかったことにある。日本企業の得意技は、「イノベーション」ではなく「改善」だったがゆえに、「改善」への信仰が崇拝にまで高まってしまった。その結果、日本の大企業は、付加価値を産み出す力を失ってしまったのである。
『一見もっともらしい理論がいちばん危ない。IQの高い人が経営で過ちを犯すのは理路整然と経営をおこない、理路整然と間違うからだ。・・・理路整然だから正しいということにはけっしてならない。そもそも人間の心理は理路整然とはしていない。いろんな矛盾をかかえながら生きているのが人間の様であって、それが生きている証でもある。その集合体である経済は、ある意味では生物現象の最たるものだ』 (安田隆夫:ドン・キホーテ創業者)
2000年前後に、携帯電話市場を寡占していた日本企業は、「改善」にこだわり、機能の多様化と各機能の高度化に邁進。顧客が求める真のニーズから乖離し、操作性が貧弱になっていた。その欠点を、アップルのiPhoneに突かれ、一挙にシェアを失ってしまう(当時流行っていたPDAで優位を保っていたブラックベリーも同様)。日本マクドナルドを創業した藤田田が、30年近く前(1996年)に『洗濯機、テレビ、音響機器、ビデオ、電話、ワープロ、ファクス・・・ハイテク関連の商品は、この瞬間にも次から次へと開発され、性能は高度化している。だが、それらの新製品が広範な消費者の支持を得ているかといえば、そうではない。テクノロジーは高度になっているが、それを駆使した新しい家庭用電気製品が売れなくなっている。・・・ハイテク産業が国民の日常生活と乖離している』と嘆いていたことに深く思いを馳せるべきである。
実際、当時の日本企業が提供する家電製品の技術は頭抜けていた。しかし、技術の品質が一定水準を超えると消費者は違いがわからない。ヘアコンテストの全国大会で優勝した中谷嘉孝は、会員制のヘアサロンLe.Patch INTERNATIONALを経営しているが、『ちょっとした技術の違いなんて、そうそう素人にはわかってもらえない・・・。通常、人が上手いか下手か、あるいは、美味しいか不味いかなどを判断する基準は、多くの場合、職人の腕というより自分の好みに合っているかどうかにかかっているのだ』と証言している。実際、消費者は3割以上の差がないと理解できないという説もある。
日本マクドナルドを創業した藤田田は、『日本のハイテク産業はアジアの諸国とくらべれば格段に進んでいるのにもかかわらず、消費をともなっていない。簡単に言えば、いくら新しいものをつくっても売れないのは、つくらなくてもいいものをつくっているからなのではないか。しかも、それは国内だけの問題ではない。・・・われわれは、アフリカとか東南アジアにはエアコンではなくて扇風機があればいいのだという人が無数にいってよいほどいることを忘れ、そうした人々に無縁のものを大量生産してきたのだ』と警告。
目先の技術面ばかりにこだわり、顧客ニーズを見逃していると企業は成長できない。「見えやすくわかりやすい技術」の「改善」ではなく、「見えにくい潜在的な顧客ニーズ」を開拓する「イノベーション」を実現した経営者が成功を収めるのである。



