vol-1109:「勉強不足で認識不足だ」という批判は正当か?
先日、申請人・受入企業・業務には問題ないが、前職が派遣会社(摘発なし)だっただけで、在留期間更新を不許可にされ、「一度、帰国しろ」と指導された外国人のことについて書いたら、
「資格外活動を派遣会社にやらされたという言い訳で許すべきじゃない。不許可で問題なし」 「結果として、その外国人は不法就労していたのだから、帰国するしかない」 「証拠がなくても可能性があるだけで、ドンドン不許可にすべき」
「外国人の場合は働ける業務範囲が事前に設定されて、超えたら違法になる。本人は一番知っている。確かに派遣会社は悪いが、その外国人も申請外の労働をしていたので悪い」
「資格外の労働だと理解しつつ働き続けた本人が悪い」 「在留資格の範囲内で働ける仕事、働けない仕事を理解してないのが悪い」
「本人の勉強不足で認識不足。本人が悪い」 などという批判をたくさんいただいた。
反対意見を言われるのはご自由だし、むしろウエルカムだが、建設的な議論を行う前提として、一応、入管法と入管実務の現実を指摘しておきたい。
事実として、入管法は複雑怪奇である。初心者が読み始めたら、20分で頭がこんがらがって眠くなることは保証する。読みにくくて仕方がない。日本語を母語とする日本人ですら極めて難解な法律なのに、日本語を母語としない外国人が「入管法を完全に理解している」という前提に立って議論するのは、現実からかなり乖離している。ハッキリ申し上げて、入管法違反を取り締まる警察官の中で入管法を完全に理解している人はほぼいないか、完全な少数派だろう。
さらに問題なのは、入管法の条文が一義的に判断できるほど明確ではないことだ。例えば、ある元入国審査官は、「法律が限定的に解釈できるような立て付けになっていれば、そんなに悩まない。でも、これだけ不確定概念がちりばめられていると、いろんな解釈がなりたちうる。完全にフリーハンドでなんでもできちゃう自由裁量感を入管では感じました。たとえば、『相当』だとか『適当』という言葉がいっぱい出てくるが、なにをもって『相当』だとか『適当』だという入管全体としての統一的なものはなくて、個々の職員がそれぞれの裁量で、『これが適当』だとか『これが相当』だとかいうようなのを推し量っている」と証言している。
もっと悩ましいのは、入管の裁量権がものすごく広いことだ。「出入国管理令の規定の仕方は法務大臣に一定の期間ごとに当該外国人の在留中の状況、在留の必要性・相当性等を審査して在留の許否を決定させようとする趣旨であり更新事由の有無の判断を法務大臣の裁量に任せ、その裁量を広汎なものとする趣旨である」(1978年10月4日、最高裁判所大法廷)と判示したマクリーン判決が実務として定着しているだけでなく、入管内の研修態勢が外国人の増加に間に合っていないこともあり、入国審査官によって結果が異なるということがしばしばある。
この「複雑怪奇な法令」「一義的に判断できない条文」「広範な入管の裁量権」という現実の下で、資格外活動か否かを完璧に判断できる外国人など皆無である(無論、明らかにダメなケースはある)。ハッキリ言って、申請業務を営んでいる行政書士でも不勉強の人が多い(行政書士の資格試験に入管法は入っていない)。
「その外国人は勉強不足で認識不足だ」などと批判する方にお伺いしたい。 ーー ガイドラインを含めて入管法令をすべて読みましたか? ーー 直近の「入国・在留審査要領」を熟読しましたか? ーー「主たる活動」と「従たる活動」を理解していますか? ーー「実務研修ガイドライン」を完璧に理解していますか?
ーー「ホテル・旅館等において外国人が就労する場合の在留資格の明確化について」の内容を理解していますか? ーー 「クールジャパンに関わる分野において就労しようとする留学生等に係る在留資格の明確化等について」の内容を理解していますか? ーー 入管は、極めて長い間、工場における生産管理や店舗における販売やアルバイトに対する研修などを「技術・人文知識・国際業務」として許可してきたという事実を知っていますか? ーー 入管が「鵜匠」の仕事ですら、「技術・人文知識・国際業務」として認めたことがあるという事実を知っていますか? ーー NC旋盤の操作が「資格外活動違反」とする入管の判断を退けた判決(名古屋地裁 平成28年2月18日)を知っていますか?
無論、入管や警察が派遣会社を摘発したときに「資格外活動」だと判断された場合、派遣の現場でその申請人は逮捕されていただろうし、有罪になり、退去強制処分になっていた可能性は極めて高い。そのこと自体を否定するつもりはない。私が申し上げたいのは、申請人を「アウト」にするのなら、派遣会社も一緒に「アウト」にすべきだ(=派遣会社を「アウト」にできないのなら、申請人だけを「アウト」にするのは公平性に欠くのではないか?)という指摘にすぎない。
もし、派遣会社が摘発されていない状況下において、申請人を「勉強不足で認識不足だ」と批判するのであれば、上記の問いにすべて「Yes」と答えられるのでなければ、少し誠実性に欠けるのではないかと思う。もしも、すべて「Yes」と答えられないのなら、「勉強不足で認識不足だ」と短絡的に批判するのは、大きく深呼吸した後にした方が良いような気がする。



