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vol-1049:日本において「ジョブ型人事」は机上の空論である

4 日前
読了時間: 4分
  • 2024年8月28日、内閣官房・経済産業省・厚生労働省は、「ジョブ型人事指針」を公表した。「職務(ジョブ)ごとに要求されるスキルを明らかにすることで、労働者が自分の意思でリ・スキリングを行え、職務を選択できる制度に移行していくことが重要である」と説き、日本企業において支配的な「メンバーシップ型人事」から「ジョブ型人事」への転換を謳っている。


    「キャリアは会社から与えられるもの」から「一人ひとりが自らのキャリアを選択する」時代となってきた。職務(ジョブ)ごとに要求されるスキルを明らかにすることで、労働者が自分の意思でリ・スキリングを行え、職務を選択できる制度に移行していくことが重要である。そうすることにより、内部労働市場と外部労働市場をシームレスにつなげ、社外からの経験者採用にも門戸を開き、労働者が自らの選択によって、社内・社外共に労働移動できるようにしていくことが、日本企業と日本経済の更なる成長のためにも急務であり、個々の企業の実態に応じたジョブ型人事の導入を進める。 (ジョブ型人事指針《内閣官房・経済産業省・厚生労働省》:2024年8月28日)


  • 日本的な雇用制度である「メンバーシップ制」は、特定の「スキルセット」を前提とせず、チームワークを前提としたオペレーションの中で、自前の「メンバー」の中でなんとかやり繰りしていくという発想を基本にしている。「日本的なやり方では欧米企業の革新に負けてしまう」という批判にも一定の合理性はあるが、「ジョブ型」にすればうまくいくとは限らない。あまりにも現実を無視した議論だろう。そもそも、「ジョブ型」という人事制度は、社会人経験のない20代前半の若者が「自分に最も適合した『ジョブ』を知っている」という非現実的な前提に立脚している。10代のうちに篩にかけ、どんどん可能性を狭めて。就労可能な「ジョブ」を決めてしまう欧州とは歴史と文化が違う。欧州で育まれ、米国に渡った「ジョブ型」を万能薬だと信じて崇め奉る必要はどこにもない。

  • 松下電器(現パナソニック)を創業した松下幸之助が、『最初はつまらないと思えた仕事でも、何年間かこれに取り組んでいるうちに、だんだんと興味が湧いてくる。そしてそれまで自分でも気づかなかった自分の適性というものが開発されてくる。そういうことがよく起こります。つまり、仕事というものは、やればやるほど味の出てくるものだ』と述べているように、「自分に最も適合したジョブ」に辿り着くまでには歳月を要する。『(そうした)仕事の味が多少ともわかってくるようになるまでには、「石の上にも三年」のことわざどおり、やはり、普通は三年はかかるといえる』と述べているように、大学を卒業したばかりで本格的に仕事をした経験のない若者が「自分に最も適合したジョブ」を自らわかっているはずがない。

  • つまり、日本社会においては、「ジョブ型」が成立する前提条件が欠けている。要するに、現在流布している「ジョブ型」というのは、完全な「机上の空論」なのである。若者に対しては、『下足番を命じられたら、日本一の下足番になってみろ。そうしたら、誰も君を下足番にしておかぬ』と説いた小林一三(阪急東宝グループ創業者)の箴言を贈るべきであろう。小林一三に限らず、成長企業を創り上げた創業者たちは、同様の指摘をしている。

    どんなにつまらないと思われる仕事でも、全力で正面から取り組め。会社の仕事は、すべて一見つまらないと思われるような仕事の上に成り立っている。その基本的な、一見つまらない(本当はとても重要なものだが)仕事すら満足にできないものには、それ以上の仕事をさせるわけにはいかないのだ。(似鳥昭雄:ニトリ創業者)

    学校を卒業したばかりの若い人たちは、地味な仕事ばかりさせられていると、それに辛抱できなくなります。自分の仕事にどのような意義があるのだろうかと疑問に思い、他のもっと責任のある仕事をさせてほしいと言い出します。しかし、そういう人は何をしても決して満足することはないのです。もし広くて浅い知識しかなければ、それは何も知らないことと同じことです。ひとつの技や分野を深く追究することにより、すべてを知ることができるのです。ひとつのことを究めることは、すべてを理解することなのです。すべてのものの奥深くに、真理があるのです。(稲盛和夫:京セラ創業者)


  • 「最適なジョブ」に関する自分なりの悟りに至るには、「メンバーシップ型」における人事異動や職務転換等を踏まえた上で、自分の嗜好と能力を凝視する必要があるというのがほとんどの日本人の現実。そもそも、現在の日本の大学教育のレベルでは、ビジネスにおける即戦力の人材を輩出することはできない。そういう現状を無視して、教科書どおりに「ジョブ型」を導入できると思っているとすれば、かなりの世間知らずだと断じてよい。

  • 賢明な経営者であれば、メディアで流布している安直な「ジョブ型歓迎論」や四角四面の「スキル至上主義」に対しては、十分な距離を置きながら、対応していくべきである。

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