vol-1053:違法派遣インフラがあるから観光客もすぐに働ける
日本には、外国人観光客でもすぐに就労できるような環境が整っている。それは、外国人派遣を生業とする業者が増大して、常に就労チャンスを供給する体制を構築しているからだ。
外国人派遣が増えたのは、派遣先の大企業群が「違法派遣を排除しない巨大な外国人供給インフラ(以下「違法派遣インフラ」という。)」を創り上げてしまったからだ。食品工場などの繁閑が激しい派遣先は、正社員やアルバイトよりも、繁閑期の調整が容易な派遣を選好。中小の派遣会社を競わせて人材を出させる。派遣業界は、提供する人材が「価値」なので、会社の大小や業歴は契約締結の障害にならない。だから、スタートアップやベンチャー企業にも新規契約の可能性がある。中小の派遣会社にとっては、1ロットの人数が多いだけに、是が非でも取りたいチャンスであり、しかも、継続的に収益が見込める派遣なので、我先にと派遣先大企業に殺到する。派遣先大企業は、複数の中小派遣会社と契約を交わして、派遣会社を常に競争状況に置くように差配していく。
各々の中小派遣会社がそれなりの質と量の人員を派遣できるようになり、互いに競い合う環境が整うと、派遣先大企業は、繁閑の調整や即時の対応、派遣時給の切り下げなど、無理難題を吹っ掛け始める。獲得した派遣契約を失いたくない中小派遣会社は、派遣先大企業からの無理難題に対応するため、どんどん無理をする。派遣先大企業から切られないためには、発注を受けたときの欠員は絶対に許されないので、ビザ切れや資格外の外国人も時間の問題で使い始める。派遣先大企業は、入国管理法上の制約がない「身分・地位に基づく資格」の外国人を欲しがる が、そのカテゴリーで派遣に応じる外国人は一定割合しか存在せず、また、たまたま登録していても他業者からの引き抜き圧力が強くて、すぐに転職してしまうので、長期的な戦力にはならない。結局、派遣先大企業の無理難題に付き合う中小派遣会社は、遅かれ早かれ「不法就労」に手を染めていく。
中小派遣会社が「不法就労」に手を染めている可能性があることは、現場で派遣外国人を使っている派遣先大企業は気付いているので、彼らの多くは「派遣先免責論(派遣先は入管法違反を問われない)」を前提としたコンプライアンス態勢を敷く。すなわち、不法就労があっても「知らなかった」「派遣会社に任せていた」と言い張り、「敢えて在留カードを確認しない」という実務を徹底。これが業界慣行となっている。もっとも、その一方では、派遣先は「善意」で、派遣会社が「悪意」という証拠を残すため、「派遣する外国人は、永住者や日本人の配偶者等に限る」とか「入国管理法上全く問題のない外国人だけを派遣すること」などという到底クリアできない条件を書面やメールで突きつけながら、「来月初から100人頼む」「来週からは50人要らない」などの需給調整を押し付ける。
そういう無理難題に対応できる中小派遣会社がいるはずはないのだが、派遣先大企業は「在留カードはそちらでチェックしてくれ。多忙で在留カードを確認する暇がない」とつぶやいて「解決策」を仄めかす。派遣先が「在留カード」を確認しないという環境の下であれば、中小派遣会社にとっては、「ほとんど摘発されることのない不法就労のリスクを取るか? それとも、派遣先大企業からの月数百万円以上の入金を失うのか?」という二者択一の問題。結局、ほとんどの場合、「不法就労」のリスクを取る。一度、「不法就労」のリスクを覚悟してしまえば、どんどんエスカレート。初めは「留学」で週28時間を数時間超えた程度で恐る恐る様子見していたのが、「技術・人文知識・国際業務」や「技能」の外国人をノーチェックで派遣するようになり、「どうせやるなら短期で大きく儲けた方がよい」ということで短期滞在や不法残留にまで手を広げていく。
無論、そういう中小派遣会社の中には、摘発される業者も出てくるわけだが、派遣先大企業は、不法就労が発覚しても、「知らなかった」「派遣会社に任せていた」と繰り返すのみ。前述した法理が素直に適用されるのなら、派遣先も摘発されて然るべきところだが、現実には、「就労状況は確認していたが不法との認識がなく、このような事態が発覚し大変驚いている。チェック体制をより強化していきたい 」「大変驚き、残念に思っている。委託業者と適切なプロセスを確認し、早急に改善に向けて対応していく 」「人員確保に必死でチェックは難しい。派遣会社との信頼関係もあり、身分確認はまかせている 」「在留資格などは原則として確認しているが、どうしてこのような事態になったか分からない 」と言い張るだけで派遣先大企業は無罪放免で終わる。このため、派遣業界においては、入管法における正しい法理はともかくとして、業界慣行である「派遣先免責論」が勝ち続けている。
外国人派遣においては「不法就労」が摘発された場合であっても、逮捕されるのは、就労していた派遣外国人と中小派遣会社の役員・社員だけで、派遣先大企業はお咎めなしというパターンが定番。そして、無傷の派遣先大企業は、摘発された中小派遣会社が担っていた外国人派遣の部分を、他の中小派遣会社からの派遣を増やして対応する。この構造が完成してしまっているため、「不法就労」で中小の派遣会社が摘発されても、外国人の「不法就労」は絶対になくならない。派遣先大企業が摘発されない限り、この「違法派遣インフラ」は瓦解することなく、外国人派遣における「不法就労」をどんどん拡大再生産していくことになる。
実際のところ、外国人派遣における「不法就労」が表沙汰になった場合も、マスコミは、派遣先大企業やその関係会社から巨額の広告費をもらっているので、派遣先大企業の名前を伏せたり、有名な関係会社の社名を報じなかったりする 。報道した場合も、1週間後にはネットニュースから削除。このため、外国人派遣の「不法就労」の関与者として、ネットニュースで晒され続けるのは、中小の派遣会社だけだ。派遣先大企業は、「在留カード」を確認しないことを仄めかす一方で、中小の派遣会社に対し、書面やメールで「業務範囲に制限のない在留資格の外国人を派遣して下さい」などと要請した証拠を残すことにより、本当は「強者」なのに「私は派遣会社に騙された」と訴える「弱者」を演じるという定番のシナリオを用意しながら、万が一摘発された場合に備えている。この状況が是正されるためには、派遣先大企業の摘発が不可欠であり、それがない限り、「違法派遣インフラ」の成長は止まらない。
「知りませんでした」とシラを切る「派遣先免責論」の上に構築された「違法派遣インフラ」は日本全国に蔓延し、在留外国人のコミュニティにおける認知度も高い。この「違法派遣インフラ」が完成しているため、旅行や知人訪問で来日したばかりの外国人でも、派遣会社とつるんでいる同国人のブローカーさえ知っていれば、日本ですぐに働くことができる。10年前と比べると、「短期滞在ビザ」で来日した外国人は、極めて簡単に日本国内で就労できるようになった。残念ながら、最近は「短期滞在ビザでは就労できない」という事実を知らず、「このビザで働けると言われた」と胸を張って答える来日外国人が増え続けている。



