vol-1059:アイリスオーヤマは不得意な分野に異動させる
このところ日本では、個々人の「スキル」を重視する「ジョブ型人事」が脚光を浴びているが、ユニークな家電などで成長を続けているアイリスオーヤマは、ゼロから「スキル」を学ばせるという「一見あり得ない人事異動」を徹底しているのだ。
アイリスオーヤマでは、ある分野の技術を3年かけて極めた社員を、敢えて異なる他分野に異動させて一から学ばせている。「ジョブ型」的な発想からは、決して出てこない「非効率な人事戦略」を実践しているのだ。しかし、そういう非効率で非常識な人事異動を実践しているからこそ、競合他社ができないレベルで、新商品開発が得意な企業風土を形成できる。インテルを立て直したアンドリュー・グローブは、『変化することの意味を経験した社員は、新たな変化にも大きな苦痛なしに再び適応できる』と語っているが、そういう人材を育て続けることが重要なのである。
技術部門でも異動は頻繁です。アイリスでは採用後に配属された部門が園芸部門だったからといって、そのまま園芸用品のプロになるような人事はしません。家電部門、建装部門へと異動します。せっかく知識・技能を覚えても、新しい部門に異動すると1年は苦労します。実際、新しい部門に移った技術者が作る製品は、発売1年目は計画通りにいかず、ほとんどの場合、赤字です。見よう見まねで設備を作るから、不良品を出して生産性も悪い。2年目にようやく、その部門の技術者として活躍するようになり、3年目からはしっかり稼ぐ製品を開発します。大変ですが、そうした経験を繰り返すとノウハウが溜まる。(大山健太郎:アイリスオーヤマ創業者)
実際、「失われた30年」と呼ばれる期間において急成長を遂げた企業の中には、「ジョブ型」とは真逆の「配置転換」で成功を収めた事例が少なくない。例えば、ニトリを創業した似鳥昭雄は、現場への配置転換を「配転教育」と呼び、「配転教育は、ニトリの真骨頂だ」と断言している。『ニトリには本部に5年いたら役員でも一度は現場担当をさせるという決まりがある。5年たつと世の中はガラリと変わる。やはり小売業はお客様の声をじかに聞いていないと、感覚がずれていく。これを防ぐと同時に、自分の部門だけの利益にとらわれる「セクト主義」にも陥らない』と語り、『大企業病を克服するためには、配転を速めていかないとだめだ』と説いている。
現場の仕事を一通り覚えたら、2、3年でどんどん異動させていく。しかも「店舗から物流」など、仕事が全く違う部門への異動が基本だ。よその視点から仕事を批評し、刺激を与えられる。・・・スペシャリストを育成する一方で、配転をするのは矛盾しているように見えるだろう。だが、専門バカではなく、幅広い分野を経験したスペシャリストの方が力を発揮する。経営とは矛盾の追求で、それが競争力を高めると思う。(似鳥昭雄:ニトリ創業者)
「ジョブ型」が中心となり、配置転換がなくなると、他部門のことなど関心がなくなるから、「セクト主義」に陥りやすい。また、配置転換があるからこそ、社内で隠れていた才能を発見することもできる(ジャパネットたかたでは、バイヤーをMCに抜擢)。これらの諸点を勘案するだけでも、「ジョブ型人事は正しい」という短絡的な評価は正しくないことがわかる。経営者であれば、メディアが垂れ流す流行り病のような話に飛びつくべきではない。
MCは全員私が指名しました。話が上手いのはもちろんですが、心を表現できるかどうか、情熱を伝えることができるどうかが、選択基準でした。一番古株のA君は、バイヤーからMCに抜擢しました。B君は、もともと技術スタッフだったんですよ。(高田明:ジャパネットたかた創業者)



