top of page

vol-1060:日本企業における「ジョブ型」は紛い物が多い

3 日前
読了時間: 4分
  • 近年、日本のメディアでは、「ジョブ型雇用」が称賛され推奨されている。このため、「メンバーシップ型雇用」に係わるデメリットが強調され、「ジョブ型雇用」のメリットばかりが喧伝される傾向がある。例えば、人事コンサルティング会社マーサージャパンによる大企業の管理職を対象とした調査(2020年9月)によれば、現状の雇用は、「メンバーシップ型」が34%、「どちらかというとメンバーシップ型」が30%で、「どちらかというとジョブ型」が15%、「ジョブ型」が21%であり、「メンバーシップ型」64%に対して、「ジョブ型」が36%の比率だったが、3~5年後の見通しを聞くと、「メンバーシップ型」44%に対して、「ジョブ型」56%と逆転。日本企業(特に大企業・上場企業)において、「ジョブ型」へと向かう潮流を観察することができる。

  • また、パーソル総合研究所の調査(2021年6月)によると、「ジョブ型」を導入企業は18.0%で、導入検討企業は39.6%であったし、「求人広告」や「合同企業説明会」を展開している学情が「ジョブ型採用」について調べたところ(2022年1月)、「2023年卒採用より前から導入している」と回答した企業が24.1%で、「2023年卒採用から導入、導入予定」2.5%を合わせると26.6%が「ジョブ型採用」を志向したというから、本格的な「ジョブ型」か否かはともかくとして、大手企業においては2~3割が何らかの形で「ジョブ型」的な制度を導入しているとみてよい。旗振り役の日本政府が「ジョブ型人事に移行する必要がある」と言い切っているだけに、世の中の趨勢は「ジョブ型」を礼賛する方向にある。

    従来の我が国の雇用制度は・・・リ・スキリングがいきるかどうかは人事異動次第。・・・日本企業の競争力維持のため、ジョブ型人事の導入を進める。・・・個々の職務に応じて必要となるスキルを設定し、スキルギャップの克服に向けて、従業員が上司と相談をしつつ、自ら職務やリ・スキリングの内容を選択していくジョブ型人事に移行する必要がある。 (ジョブ型人事指針《内閣官房・経済産業省・厚生労働省》:2024年8月28日)

  • 求職者サイドを見ても、学情が行ったアンケート調査(2024年4月)によれば、「ジョブ型」採用について、「興味がある」と回答した学生が49.2%に上り、「どちらかと言えば興味がある」32.8%を合わせると、82.0%の学生が、「ジョブ型」採用に興味を持っているという。偏った報道によって煽られてしまっている感はあるが、「スキルセット思考」を人事制度に落とし込んだ「ジョブ型」が持て囃されている。だからこそ、人材業界において、「スキルセット思考」が支配的であることが社会的な支持を得ているという勘違いが起きやすい。

  • 転職サービス「DODA」のアンケート調査(2024年1月)においても、メンバーシップ型雇用』に対する印象を『肯定的』『どちらかといえば肯定的』と回答した人の割合は68.4%で、『ジョブ型雇用』に対する印象を『肯定的』『どちらかといえば肯定的』と同様に回答した人の割合は76.2%ということで、「ジョブ型」に対する肯定度合いが「メンバーシップ型」よりも高い。このため、「ジョブ型雇用で働きたい人」も54.8%と過半数を占めている。

  • もっとも、人材会社エン・ジャパンのアンケート調査(2021年5~7月)によれば、「ジョブ型雇用の言葉も意味も知っている」人は14%しかおらず、「言葉は聞いたことがあるが意味はよく分からない」が31%、「知らない」が55%。前掲した「DODA」による意識調査(2024年1月)においても、「ジョブ型雇用」を知っていて、ほかの人に説明できる人の割合は12%にすぎないから、実態としては、日本企業において、「ジョブ型」が広まっているとは思われない。ムードとイメージだけが先行している感が強い。

  • そもそも、日本企業で広まっている「ジョブ型」は紛い物が多く、「業務上の成果を出して評価が高いと上位の等級に昇級できるが、逆に評価が低いと職責を果たしていないと見なされて、降級・降格が発生する」という「ジョブ型」の特徴を逆手に取り、「給与を上げず、下げやすくする」ために利用されている。その程度の代物を必要以上に礼賛する論説は、あまりにも胡散臭い。

  • 本来の「ジョブ型」は、雇用契約時で結んだ「職務」は固定され、賃金も原則として変わらない。また、職務変更や配属先の異動・転勤は本人の同意を必要とするなど会社の人事権を大幅に制限する制度だが、日本企業における「ジョブ型」の多くは会社が異動・配置の人事権を捨てていない。要するに、「仕事」で規定されるはずの「ジョブ型」ではないというのが実態である。

  • 上記のような日本企業が多いのは、人事権を保ちつつ、「脱年功序列」を進めるのに「ジョブ型」という「仕組み」が便利だからである。必要なスキルを持つ外部人材を市場価格で調達できるメリットに加え、異動させることで幅広いビジネス分野で活用できる。成果評価による昇進と降格、それに伴う賃金の増減で、人件費を固定費から変動費化できるというメリットもある。

  • もっとも、少なからぬ大企業における本音は、「反論が少ない『ジョブ型の導入』というお題目で、全体の人件費を引き下げる」ということであろう。欧米型の「ジョブ型」を受け入れる日本企業の風土が変わらない中で導入した場合、効率を上げるどころか、社員の士気の低下を招いて、生産性を下げてしまう可能性が高いという点には留意が必要である。

bottom of page