vol-142:新興企業はメディアに露出しないほうがいい
大企業と競合することなく、着実に成長していきたいと望むならば、新興企業は、メディアにおける露出を、可能な限り最小限に止めるべきである。
北の達人コーポレーションを創業した木下勝寿は、「わけありグルメ」専門の通販サイトを立ち上げ、「見た目は悪いが、味はまったく変わらない安いカニ」「不揃いだけど激安でおいしいタラコ」などを割引販売して成功を収め、多くのメディアに取り上げられた。「メディアがこれだけ宣伝してくれたら大ヒット間違いなし」と思った木下勝寿の期待はあっけなく裏切られる。テレビの露出で顧客は増えたが、マネる同業者も増えてしまい、あっという間に、大手企業も「わけあり」市場に参入。「わけありグルメ」で検索すると、似たサイトがずらっと並ぶため、顧客はテレビで見たサイトがどれだかわからず、検索した中で一番良さそうな商品、一番安い商品を探すため、自社の売上増に直結しない。木下勝寿は、『アイデア勝負のビジネスはすぐにマネされ、ブルー・オーシャンはすぐにレッド・オーシャンに変わる』と語っている。
ちなみに、室町時代に創業し、600年の時代を超えていまなお営業している製薬会社外郎家(ういろう)の現当主は、『とにかくどのようなかたちでも、人に知られたくないんです。私どもはただひっそりと静かに薬をつくっていればそれでいい。マスコミもジャーナリズムもウソばっかりで本当に懲りております。知られれば知られるほど、いいことは一つもない、ろくなことがないので、本とかマスコミとかそういうところには可能なだけ出ない、というのが私どもの方針でございまして』として、メディアの取材をすべて断っている。
メディア露出という点について、ドン・キホーテを創業した安田隆夫は、『世の中には、隙あらば人の足を引っ張ろうとする手合いがうじゃうじゃいる。自らの成功を言いふらすと、彼らの敵意をいたずらに高めてしまうことになり、不運を招き呼び込む要素が一挙に倍増してしまう』と諫めている。経営者であれば、『話題になることと利益が出ることは別だ』(木下勝寿:北の達人コーポレーション)という現実を冷徹に弁えるべきであり、成長力を超える知名度を欲してはならないということを心に刻んでおくべきだろう。
ちなみに、世界最大の小売企業であるウォルマートを創業したサム・ウォルトンも、『私たちが自らに戒め続けてきたことのひとつは、自分たちについて語ること、つまり外部に対して自慢めいた話をすることだった』と述懐している。「世間にどう見られているか」よりも「顧客に何を提供できるか」を考えるほうがはるかに重要であり、広告や宣伝で世間に「良い会社」だと思わせるのではなく、商品やサービスの内容で、顧客に「良い会社」だと思われるべきだ。要するに、広報や宣伝に頼るのではなく、お客さまの「口コミ」で知名度を上げるのが最上策なのである。
『努力を重ねて高い品質の商品をそろえていた成城石井ですが、ことさらに自分たちから喧伝するようなことはしませんでした。自分から物語らないことを方針としたのです。というのも、ブランドが確立する条件というのは、お客様が宣伝してくれるというのが基本なのです。現在のようにネットやSNSなどと、媒介するメディアが移り変わろうとも、口コミの本質はいつの時代も変わりません。品質の良さは、お客様ご自身が物語ってくださることが最も効果的です』(石井良明:成城石井創業者)



