vol-177:新興企業が成長を急ぐと大企業が襲い掛かる
新興企業が『小規模な市場は大企業の成長需要を解決しない』という鉄則を忘れて、成長を急ぐと、大企業が競合他社として立ちはだかる。「機密情報が記載された書類を廃棄する」という新しいニーズに気付いた明光商会は、1962年に「MSシュレッダー」を開発し、市場を独占。気を良くして大々的に広告を打って拡販に着手したところ、事務機大手リコーの参入を招いてしまった。たまたま、バブルが崩壊してリコーが撤退したことでピンチを免れたが、そのままリコーとの全面対決が続いていたら経営危機に陥いる可能性もあった。同様に、医療用白衣の最大手メーカーのナガイレーベンは、白衣の利益率が低かったため、利益率の引上げを狙って、森英恵にデザインさせた高価格帯の「ブランド白衣」を販売したが、結果的にアパレル大手のオンワード樫山の参入を招いてしまう。これもバブルの崩壊を機に、オンワード樫山が戦線を縮小してくれたことで難を逃れた。
この事情は、大企業の新規事業でも同じ。アマゾンは、ストレージやデータベースなどを提供するAWSを販売しているが、極めて低い水準に価格を留めている。「長期的な赤字要因になる」という社内の批判に対して、ジェフ・ベソスは、『スティーブ・ジョブズの失敗を繰り返したくない』と回答。『アップルはiPhoneを、びっくりするほど利益が上がる価格に設定したため、競争相手をスマートフォン市場に引き寄せてしまった』と評している。
新興企業は、小さな成功に気を大きくして、一気呵成の拡大を狙ってはならない。大手企業から目を付けられないよう、意識して「抑制された成長」を心掛けるべきである。限られた資源をすべて顧客に振り向け、顧客以外は誰も知らないという程度の「知名度」でよい。ちなみに、リクルートでは、「New RING」という提案制度を設けて、常に新規事業に挑み続けることを仕組化しており、100億円以上の市場規模が見込めない場合は「事業化に値しない」と判断している。逆に言えば、「100億円までの売上高であれば、リクルートと競合しないで済む」ことを意味する。だからこそ、新興企業は、小さな市場を狙うべきなのだ。「New RING」では、数百件のうち20件弱がテストマーケティングに進み、数件が事業化に進む。1991年、結婚情報誌「ゼクシー」の種となる事業が提案されたが、「30億円の市場しか見込めない」という理由で落選した。
ちなみに、高級車メーカーとして有名なフェラーリには「需要よりも一台少ない数を作る」という社訓があり、「売れるだけ売る」というようなことは絶対にしないという戦略を長年実行している。フェラーリの生産台数は年間わずか数千台。特殊な市場を小さなまま維持することにより、大企業の関心と参入意欲を薄めて無競争状態を創り上げ、デザインやエンジニアリングの多くを外注することにより、低コスト体質を磨き上げて、生き長らえ続けている。
新興企業や中小企業が「成長」を選ぶ際には、大企業との激しい競合を勝ち抜けるか、という点を厳しく見極めるべきである。



