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vol-512:アトキンソン理論は矛盾だらけだ!

2019年8月10日
読了時間: 4分
  • 菅官房長官のブレーンとして頭角を現しているデービッド・アトキンソン氏が、「360万社ある中小企業を200万社弱に統廃合すべきだ!」と提言しています。彼のロジックは、下記のとおりです。

    ーー 企業の規模が大きくなればなるほど生産性が上がる、という経済の大原則があります。企業規模が大きくなれば分業ができますので、社員の専門性が上がって、一人ひとりが自分のスキルを最大限に発揮できるようになります。小さな企業よりも利益が集約されて、絶対額が大きくなりますので研究開発や人材開発などにも力を入れることができます。

    ーー 日本では、大企業で働く労働人口は全体の12.9%で、87.1%の労働人口が中小企業で働いています。また、20人未満は20.5%とアメリカの2倍近い水準なのです。これだけ小さい規模で働く人の割合が多いということは、どんなに大企業の生産性を上げても、その効果がほかの先進国に比べるとかなり小さく、限定的になるということです。

  • さすがにアトキンソン氏は、熾烈な競争で知られるゴールドマン・サックスで生き抜いてきたアナリストだけあって、レトリックが巧みです。信奉者も多いようで、「最低賃金を上げろ!」という大合唱に加わっている方も多いのですが、私は、ここで、中小企業に勤めている87.1%の方々に対して、明確に警告しておきたいと思います。

  • 彼の論理を簡単に示すと、下記のとおりです。

    ① 大企業は生産性が高く、中小企業は生産性が低い。

    ② 大企業の生産性が高いのは、規模の経済(Scale Merit)が働くからだ。

    ③ 中小企業を潰し、人員を大企業に移動すれば、国全体の生産性が上がる。

  • 彼は、「上記の論理が正しい」という前提の下で、最低賃金の引き上げ(毎年5%)を唱えています。つまり、「最低賃金の引き上げに耐えられないような中小企業は潰れてしまえばよい」と考えているからです。

  • しかし、少し発想を変えてみましょう。じつは、中小企業を潰したいのなら、もっと効果的で効率的な手があります。それは、大企業が、中小企業にいる即戦力の人材に対して、高給を提示して引き抜いてしまう、という方法です。これをやられやら、ただでさえ人手不足で困窮している中小企業は、ひとたまりもなく破綻してしまうでしょう。

  • この方法は、わざわざ政府や政策の手を借りなくても、大企業が実施するだけで簡単にできる方法です。もしも、アトキンソン氏が主張しているとおり、中小企業が破綻した場合には、あぶれた人たちが大企業に吸収されるというのであれば、生産性や効率性に理解が深い戦略的な大企業であればなおさらのこと、中小企業が破綻するのを待つことなく、自ら中小企業に勤めている主だった人材を引き抜いて、雇用を増やし、さらに生産性を引き上げるための手を打つに違いありません。

  • しかし、現実には、そんなことをしている大企業はほとんどいません。アトキンソン氏が社長を担っている小西美術工藝社(文化財修理の業界大手)ですら、そんなことはしていません。それどころか、最近、大企業では、45歳以上の正社員を大量にリストラしているくらいです。アトキンソン氏の理論が正しいのであれば、大企業になれば生産性が高いはずなのですが、どうも日本の大企業は、生産性が低いと思われる中高年をどんどんクビにして、高い生産性を維持しようとしているみたいです。

  • つまり、日本の大企業は、高い生産性と効率性を活かして、さらに雇用を増やすことにより、拡大再生産を目指そうとはしておらず、縮小均衡の中で、リストラを行うことによって、相対的な生産性の高さを維持しようと考えているだけというのが現実なのです。

  • したがって、アトキンソン理論は、正しくは、下記のようになります。

    ① 大企業は生産性が高いように見えるが、拡大再生産を目指していない。 ② 大企業には、規模の経済は働くけれど、規模の不経済も働く。

    ③ 中小企業が潰れたら、失業した人員は行くところがなくなる。

  • 分かりやすいのが銀行業界です。間違いなく、日本の銀行業界は統合され、メガバンク3行に集約されました。皆さんは、規模の経済が働くことによって、日本の銀行の効率性は高まったと思いますか、生産性は引き上げられたと思いますか? 銀行をリストラされた人たちは、大企業で再就職できていますか? より生産性の高い職場で、就業することができていますか?(もっとも、寡占利益を享受して楽しているでしょうが・・・)机上の空論よりも、現実を直視すべきです。

  • もう一度、皆さんに質問します。デービッド・アトキンソン氏が主張する経済政策を実行すべきだと思われますか?

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