vol-600:HondaJetは専門家たちの思考を超えた
オートバイで「イノベーション」を起こしたホンダは、航空機市場においても、「イノベーション」を創出した。北米では、「コストが安くて誰でも飛行機に乗れる」といったキャッチフレーズが注目を浴びて、2000年前後に小型ジェット機のマーケットが盛り上がり、数多の新規参入を呼び込んだ。しかしながら、結局、ほとんどの新規参入者たちは次々と挫折していく。ところが、航空機では全く実績のないホンダが、まったくのゼロから徒手空拳でスタートし、「空飛ぶクルマ」というコンセプトを掲げて開発した小型ビジネスジェット機HondaJetは、2017年から5年連続で世界1位の販売を記録。同市場で君臨し続けていたセスナ社を抜くという空前絶後の快挙を成し遂げる。
じつは、ホンダの技術者は、飛行機の製造経験ゼロの素人。見よう見まねで全分野を試行錯誤して、最善の組み合わせを無数に探究した結果、主翼の上にエンジンを置くというソリューションに辿り着く。このソリューションに辿り着いた結果、空気抵抗面で大きなメリットが生まれ、客室への騒音が弱まり、かつ客室容積を増やすことができた上に、燃費を良くするという効果を得た。
ちなみに、ホンダとGEが共同開発したHondaJetのエンジンは、主翼上面に搭載されているが、一般的にビジネスジェット機は、胴体の最後部にエンジンを置くため、HondaJetの方式は成功例がない「タブー」だった。ボーイング社やNASAなどの超一流の技術者は、「翼」「エンジン」「客室設計」などの細分化した範囲の中では最先端だったが、蛸壺的に研究していただけだったため、HondaJetが編み出したソリューションに辿り着けなかった。つまり、「持続的技術」を得意とする大手企業は、HondaJetの新方式(主翼上面の搭載)の可能性に気付くことができなかった。
実際、ホンダが、世界最大の航空機製造会社であるボーイングの設備を借りて、HondaJetのテストを始めると、ボーイングの技術者たちは、「ホンダが変なことをやっている」「何であんなところにエンジンをつけているんだ」と陰口を叩いた。しかし、間もなく「こいつらはすごいんじゃないか」という噂が立ち、4週間後には「あいつらはすごいことをやっている」と言われ始めたという。
一般には「専門家でないとイノベーションなど起こせない」と思われがちだが、じつは、「専門家だからこそ、イノベーションに辿り着かない」という側面がある。「ジョブ型人事」の専門家が、「メンバーシップ型人事」の中で揉まれた専門家よりも、勝っているとは限らないのである。



