vol-685:リモートワークはイノベーションを生まない
日本ではあまり報道されていないが、リモートワークを批判している米国企業の経営者は少なくない。例えば、『リモートワーカーは、働いていないわけではないが、実際には仕事をそれほどしていない』(Blackstone)、『オフィスにいないとプロフェッショナルな成長は難しい』(ディズニー)、『リモートは過去の習慣に戻させる。文化・創造力にとって別物』(JPMorgan Chase)など枚挙に暇がないほどだ。
テスラを創業したイーロン・マスクは、リモートワークを「道徳的に間違っている」として全否定していたし、フェイスブック(現メタ)の創業者マーク・ザッカーバーグは、社内の業績データを示しながら、「在宅勤務者は効率的ではなく、エンジニアはオフィスに来た方がより多くの仕事をこなせる」と述べていた。じつは、ヤフーのマリッサ・メイヤーCEOが、パンデミックが到来する遥か以前の2013年の時点でリモートワークを止めようと試みた時期がある。結局は、社員の猛反対に遭ったので途中で断念してしまったが、当時において、すでに『最善の決断や洞察は廊下やカフェテリアの雑談、人々の新たな出会い、即興のチーム会議から生まれる』ということは経験上わかっていた。デジタル・コミュニケーションが、「直接のコミュニケーション」を凌駕するという考えは、明らかに間違っていたのである。
実際、「世界を変えるほどの製品をつくる」ことをビジョンとするアップルを創業したスティーブ・ジョブズは、『ネットワーク世代は、アイデアは、eメールやiチャットでも生まれると考えがちだが、それはバカげている』と主張し、『イノベーションを起こすためには、普段あまり顔を合わせることのない色々な部署の社員が偶然顔を合わせ、何気ない会話を交わし、そこから色々なアイデアや創造性が生まれることが必要だ』と考えていた。彼は、「協働と創造性を促進するオフィス環境」の重要性について説くだけでなく、その考えを会社内で実践していたことで知られている。
かつて、ゼロックスが修理技術に関して、社内のナレッジ醸成がどこで行われているかを調査するために、あらゆる場所にカメラを設置して調査したことがある。最も高度で価値ある情報共有は、上司への報告でも、会議室の中でもなく、喫煙ルームで行われていた。煙草を吸いながら雑談をしている何気ない相談とアドバイスの中で驚くようなナレッジが醸成されていた。
リモートワークで、イノベーションは生まれないのである。



