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vol-831:IT投資をしたら生産性が高まるというのは虚言だ

2021年7月31日
読了時間: 8分

更新日:9月15日

  • 「サービス業は生産性が低いから、値上げすべきだ」というナンセンスな論理と同様に、経済学の理論を誤用して間違った結論に導いているのが、「日本は労働力が減るのだから、IT や RPA で資本装備率を上げて、生産性を高めるべき」という愚論です。この論理は、じつは、下記の「マクロ生産関数」(コブ・ダグラス型生産関数といいます)を想定するところから始まります。

    𝑌𝑡 = 𝐴𝑡𝐾𝑡𝛼𝐿𝑡1−𝛼

  • ハッキリ申し上げると、こんなものはどうでもいいんですが、とりあえず、小難しく説明することにします。𝑌𝑡 は産出量(実質 GDP)、𝐾𝑡 は資本投入量、𝐿𝑡 は労働投入量。𝐴𝑡 は資本や労働の利用効率を表す概念であり、全要素生産性(Total Factor Productivity, TFP)と呼ばれます。𝛼 および 1 − 𝛼 は産出量の資本投入量および労働投入量に対する弾力性を表し、定常状態においては、資本分配率と労働分配率に等しくなります。上式の両辺を対数変換すると、下記の式が得られ、各変数の差分を∆で表すと、産出量 𝑌𝑡 の成長率 ∆𝑦𝑡 は、その下の数式のように表現することができます。

    𝑦𝑡 = 𝑎𝑡 + 𝛼𝑘𝑡 + (1 − 𝛼)𝑙𝑡

    ∆𝑦𝑡 = ∆𝑎𝑡 + 𝛼∆𝑎𝑡 + (1 − 𝛼)∆𝑙𝑡 ・・・ ①

  • 重ねて申し上げておきますが、こんな数式変換などはどうでもよろしい。理解する必要性は、これっぽっちもありません。そもそもが、仮定と想定の下に導き出された恒等式に過ぎませんから。さて、上記の数式から、エセ・エコノミストたちは、下記の関係式を導きます。

    GDPの成長率=TFPの向上(∆𝑎𝑡)

           +資本の寄与(∆𝑎𝑡=資本ストックの増分✕資本生産性の向上)

           +労働の寄与(∆𝑙𝑡=労働力の増分✕労働生産性の向上)

  • 上記の概念整理を前提に、GDP統計などから各要素を推計するのですが、ここでも、計算することができるように、様々な仮定が置かれます。例えば、「資本ストック」を有形固定資産と見なして、「資本生産性」に関しては、「付加価値額」を有形固定資産で除したりするわけです。「労働力」については、就業人口を採用すれば、「労働生産性」に関しては、「付加価値額」を就業人口で除したりして求めることができます。「付加価値額」は、ざっくり売上総利益でみる方法や経常利益に各種費用を積み上げていく手法があるのですが、ここでは簡単に「粗利」と理解してださい。さらに重ねて申し上げておきますが、こんな統計分析の詳細なんてどうでもよい話です。要するに、「仮定の上に仮定を重ねたかなり大雑把な推論なんだ」ということだけ分かればいいです。そもそも、GDP自体が巨大な推計値に過ぎませんから。

  • そこで、上記の推計を積み上げていくと、資本ストックの増分でも、資本生産性の向上でも、労働力の増分でも、労働生産性の向上でも説明できない部分が出てきます。推計上は、その残差を「TFP の向上」であるに違いない、と見なして、これを一般的に「技術革新による GDP の成長率寄与」であると結論付けます。ここまでくると、この手の議論を展開する輩たちがいかにいい加減かがわかります。「うまく説明できないから、技術革新の効果に違いない」と決めつけているだけなんですから。そこでいう「技術革新」の中身とか、技術革新によって、いかにして GDP が増加したかなんて説明できません。だって、差っ引いた残りかすにすぎないんですから。

  • ここまでの思考経路と統計作業を経て、エセ・エコノミストたちは、一般の人たちに分かりやすいように、下記の関係式を持ち出して、「生産性」に関する議論を展開するというのが、一般的な「経済理論」ということになります。

    経済成長力=技術革新+資本増+資本生産性向上+労働力増+労働生産性向上

  • そして、エセ・エコノミストたちは、もっともらしく、「日本は、労働力増加が見込めないのだから、資本装備率を上げて、生産性を高めなければならない」と言うわけです。ここでいう「生産性」の内容は、①機械化などによって「労働生産性」を高める、②機械化自身の「資本生産性」を高める、③資本ストックをとにかく増やす、という論理がごっちゃになって含まれているのですが、分かりやすさを信条とするエセ・エコノミストたちは、①をメインに論理を展開します。ちなみに、「資本装備率」とは、「資本ストック」を「労働力」で除した数値で、これが高ければ高いほど資本集約的とみなされるのですが、これも、ハッキリ言って、どうでもいい話。そもそも、「資本ストック」を「有形固定資産」と見なすケースが多いので、どうしても、「機械化」と言う話に直結するのですが、「ブランドのような無形固定資産はどうすんねん?」みたいなツッコミは、完全に捨象しているのですから・・・。

  • 要するに、ここまでの「経済学っぽい理論」を背景に、エセ・エコノミストたちは、「労働力が減少する時代においては、労働生産性を高めるしかない。そして、労働生産性を高めるには、IT や RPA を進めるしかない(=資本装備率を上げるしかない)」と結論付けて、話を展開するわけなんです。でも、ここまで我慢してお付き合いしていただいた方は、この論理がツッコミどころ満載であることに気付くことができるはずです。要するに、単純化した想定を前提に、仮定の上に仮定を重ねて、統計値を無理くり当てはめて、論理を単純化し、肝心なところを省いて、自分の都合のよいところだけをつまみ食いしているわけですから。こんな理論は、信用するに値しません。

  • だって、上記の論理を尊重したとしても、①労働生産性を引き上げる唯一の要因が機械化とは限らないし、②機械化自体の生産性を引き上げることのほうが効果的かもしれない、③それにわけのわからない「技術革新」部分のほうが影響が大きいかもしれないでしょ。でも、エセ・エコノミストたちが唱えていることは、労働生産性がどうなるかはともかくとして、IT や RPA への投資を増やすことにつながるから、「資本ストック」の増分を引き上げることになります。だから、そこだけを見れば「成長力」に寄与します(愚かな投資で、「資本生産性」が落ちてしまうことはままありますが・・・)。まあ、私からすれば、「お前らは、IT屋とロボット屋の手先か!」みたいな話なんですけどね。

  • そもそも、「付加価値」なるものは「粗利」で計算されているのですが、「付加価値」を引き上げることに、IT や RPA は直接寄与しません。多くの場合、IT や RPA は、効率性を向上させて、コスト削減で寄与するわけですが、「粗利」自体を増やすのは、売り上げ増や価格引き上げなのですから、IT や RPA が売り上げ増や価格引き上げに直接貢献してくれるわけじゃないことは明らかです。

  • 味の素の有名な話を思い出しましょう。味の素が飛躍的に売り上げ高を増やし、「付加価値」を増大させたのは、「調味料をふりかける穴を大きくしたこと」でした。これって、IT ですか? それとも RPA ですか? そんなこと何一つ関係していません。思考を転換して、ビジネスのやり方をちょっと変えただけです。ビジネスには、こういう要素が山盛りで入っていて、ここまで展開してきた「労働生産性」とか「資本生産性」というざっくりとした議論で説明できる程度の底の浅いものではないわけです。だって、トヨタの「KAIZEN」って、おそらく「労働生産性」を引き上げたと思うけれど、それはどうやって数値化しますか? エセ・エコノミストたちができることは、所詮、結果としての「付加価値(≒粗利)」を「労働力」で除して、「労働生産性が向上しているのは、KAIZEN の結果に違いない」って、想像(!)することだけなんですよ。

  • 要するに、「付加価値」の増分を、「資本ストック」の増分と「労働力」の増分と比較して、「資本ストックが寄与したのか?」、それとも、「労働力が寄与したのか?」を想像することでしかないわけです。実際のところは、「資本生産性の向上」で付加価値増がもたらされたのか、それとも、「労働生産性の向上」で付加価値が増えたのかは、なかなかに判断しがたい。さらに、経済全体(GDP)の成長力の話になると、「資本ストック」でも、「労働力」でも、説明できない「技術革新(≒TFPの向上)」がカギになってきて、「それは、技術革新をもたらす機械化(≒資本ストックの増加)によるものに違いない」なんていう短絡的な論理になっちゃう。

  • だから、「日本は労働力が減るのだから、IT や RPA で資本装備率を上げて、生産性を高めるべき」などという主張に出遭ったら、「あなたがいう生産性の定義を明らかにしてください」と詰め寄って、「資本生産性の話なのか、労働生産性の話なのかはっきりさせた上で、それらをどう計算しているのか示してください」と言いましょう。その上で、「資本装備率を上げたところで、資本生産性が落ちたら、意味ないですよね。それはどうするんですか?」とツッコんで、「付加価値って、つまるところ、利益ですよね。IT や RPA でどうやって、売り上げを増やしたり、値段を引き上げられるのか教えて下さい」と問い詰めましょう。そして、そのエセ・エコノミストが「IT や RPA の導入による効率性の向上」で逃げようとしたら、「あなたのいう IT や RPA はいくらですか? それでいくらくらいのコストを削減できるんですか? それって、本当にコストに見合ってますか?」と畳みかけてください。最後に、「あなたが、日本経済の成長力を議論しているんだったら、全要素生産性(TFP)を正確に計算する方法を示してください。言っておきますが、資本や労働力で説明できない残差だって話はご法度ですよ」と捨て台詞を吐き捨てれば完了です。

  • 私は、上記のことを分かったうえで、あるいは、分かりもしないで、「生産性」について軽々に語る輩たちは、まったくもって信用できないアホたちだと思っています。長文のお付き合い、どうもありがとうございました

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