top of page

Vol.1047:「人材希少社会」で介護は「無理ゲー」になる

5 日前
読了時間: 5分
  • 日本で働く外国人は257万人。労働者の27人に1人にあたる。2009年においては112人に1人だったことを考えると、増加の著しさがわかる。外国人労働者は、日本人が当たり前と思っている「普通の生活」を支える存在と化した。その現実が鮮明なのは介護現場。日本の介護現場における人材不足は極めて深刻であり、2026年度には25万人、2040年度には57万人が不足すると見られている。どこの施設もスタッフの確保に頭を抱えており、事業存続の危機にさらされている施設も少なくない。さらに、日本国内だけではなく、台湾や韓国、シンガポールなどの諸外国とも外国人介護人材を奪い合っているというのが現状だ。

  • こうした外国人介護人材は日本にとってありがたく、本来なら感謝しても感謝しきれない存在だ。しかし、高市政権による在留資格の厳格化だけでなく、在留資格変更・更新手数料の大幅引上げ(6000円から33,000円~77,000円に)が彼らを襲っている。本人負担が増えれば、日本で働き続けることをためらう人が出てくるので、人材流出を防ぐため、増額分を事業者側で負担するという動きが出ている。介護関係者からは、「これは無理ゲーだよ、介護業界も壊滅するんじゃないのか」「給料を上げても日本人は来ない。外国人スタッフがいなくなったら、サービスが低下して事故が起こる」という怨嗟の声が沸き起こっている。

  • 日本介護クラフトユニオンが2025年4月に公表した緊急調査では、訪問介護事業所の管理者の89.4%が、人手不足を理由にサービスの依頼を断った経験があると回答。ケアマネジャーの68.3%は、必要なサービスを組み込んだ介護計画を作れなかったと答えた。代替策として家族に介護を頼んだ例は41.4%に達し、何の手当てもできなかった例も19.3%あった。事業所の閉鎖やヘルパー不足によって、現場ではサービスが割り当てられる。「働く人の数が供給の上限を決める」―― これが「人材希少社会」の現場である。

  • 「人材希少社会」という用語は、石破茂前首相が2025年1月の施政方針演説で、生産年齢人口が今後20年で約1500万人、2割以上減るとの見通しを示し、「今や、わが国は『人材希少社会』に入っています」と述べたことを嚆矢に普及した(同年6月に閣議決定された「骨太の方針2025」にも記載)。海外でも認識は共通している。欧州委員会のフォンデアライエン委員長は2023年9月の一般教書演説で、「何百万人もの人が仕事を探すのではなく、何百万もの仕事が人を探している」と述べ、「EUの中小企業の74%が熟練人材不足に直面している」と指摘している。

  • こうした問題提起に対して、日本では、軽々に「人手不足なら賃金を引き上げればよい」とか「人口が減るのなら生産性を上げればよい」という脊髄反射的な反論が広く沸き起こる。しかし、そうした論者は「人材希少社会」で生じている労働力問題の深刻さを舐めている。現在、日本の介護現場で起きているのは、「いま受けられるはずのサービスが届かない」という供給制限の問題だ。「需要はあるのに供給ができない」という悩ましい問題である。

  • 「人手不足」とは、企業、事業所、職種など特定の範囲で、必要な人数を確保できない状態を指す。賃金や勤務条件を改善し、他社から5人採用すれば、その会社の不足は解消できるが、5人が別の会社から移っただけなら、社会全体の労働供給は増えない。採用に成功した会社はサービスを供給できても、引き抜かれた会社はサービスを提供できなくなる。「賃金上昇によって全体の労働供給量が増える」場合、人手不足問題は解決され得るが、「各社の採用努力を足し合わせても全体の供給量が増えない」状態にある「人材希少社会」において、人手不足問題は解決されない。つまり、「人材希少社会」とは、「生活や社会制度の維持に必要な労働需要に対し、働き手の総量と職種別の供給が継続的に不足し、企業間の人材移動だけでは解消できず、サービスの縮小や選別が起きる状態」を産み出すのだ。

  • そうなると、「生活を維持するために必要な労働力を社会が供給できない」ことになる。あるいは、一部の富裕層しか支払うことができないバカ高い水準にまで、生活に必要なサービスの価格が上昇してしまうことを指す。「人材希少社会」で余るのは「仕事」。介護という仕事が、担い手が足りずに処理されないまま残り続ける。介護保険が定めた料金を払う意思があってもサービスを買えない、介護保険を利用する権利があっても利用できない、といったケースが増えていく。

  • 介護サービスにおいては、市場価格と社会的な必要性が一致していない。市場に任せれば、料金が高すぎて一般庶民では賄えない水準にまでサービス価格を引き上げるしかないだろう。しかし、一般庶民のニーズに応えることを目的に、その価格差を税金で埋めるとすれば、財政赤字があっという間に膨れ上がる。生成AIやDXが普及しても、できるのは、介護記録をまとめることくらい。利用者の体をベッドから車椅子へ移すことはできない。

  • 「人材希少社会」は、「労働力の供給が足りないとき、誰の生活を後回しにして、誰に負担させるのか?」という優先順位付けの問題を表面化させていく。介護サービスの場合、家族が穴を埋めることになることが多いだろうから、親の面倒を見るために退職する労働者が増える。その結果、さらに労働力の供給が少なくなり、問題を深刻化させていく。「介護が無理ゲーになる」前に、日本人は、外国人介護人材のありがたみについて、一度真剣に考えておいた方が良い。日本社会に残された時間はそれほど長くはない。

bottom of page