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vol-1078:サナエノミクスによる好景気は勘違いなのか?

10月3日
読了時間: 5分
  • 2026年10月1日、日銀短観(9月調査)が公表され、相変わらず人手不足を訴える企業が多いことが確認された。「過剰」と答えた企業の構成比から、「不足」と回答した企業の構成比を差し引いた「雇用人員判断(=過剰-不足)」は、全産業ベースで▲38%ポイントと6月調査(▲37%ポイント)よりも人手不足感が強まっている。先行きについても▲41%ポイントとさらに人手不足感が高まっていくという予想だ。

  • 素直に考えると、この「人手不足感」は、有効求人倍率などの雇用関連統計と連動していると想定されるが、正社員の有効求人倍率は、8月時点で0.99であり、6ヶ月連続で1を割り込んでいる(求人数が求職数を下回っている)。また、アルバイトの有効求人倍率は1をわずかに上回っているものの、5~6月は1を下回っていたなど、決して労働需給が逼迫しているわけではない。

  • 事実として、マイナビ調査によるアルバイト平均時給(全国)は、8月時点で前年比▲1.2%。2026年に入ってからの推移も弱々しいものだ(1月+3.1%➡2月+2.5%➡3月+2.3%➡4月+0.4%➡5月▲0.4%➡6月+0.1%➡7月+1.1%)。派遣平均時給(エンジャパン)も8月時点で+0.9%に過ぎないなど、6月の+2.2%と比べれば減速傾向を示している。「人手不足=賃上げ」というムードはない。

  • 実際、全国雇用協会の調査でも、「今すぐに雇いたい」と回答する企業は、9月時点で16.2%という水準であり、直近ではわずかながらに上昇している(7月14.5%➡8月15.2%)ものの、1年前の水準には遠く及ばない(2025年9月28.6%)。「現場にかかりっきり」と答えた企業は、9月時点で16.0%にすぎず、このところ現場の逼迫感は若干薄れつつある(2025年12月23.9%➡2026年3月16.5%➡6月17.8%)。また、「通常業務が回らない」と悲鳴を上げている企業も、9月時点で14.0%で8月(17.7%)よりも少なくなっている。「貴社が知っている企業で人手不足になっている企業は何社ありますか?」という問いに対する企業数の平均は、直近ピークの2.67社(2026年5月)から9月の1.74社へと水準を下げている(6月2.48➡7月2.36➡8月2.00)。

  • 要するに、「もう少し人がいればいいのに」という「人手不足感」はあるものの、将来の日本経済に自信が持てず、近未来のビジョンが描けないので、「賃上げ・雇用増➡消費増➡収益増➡人手不足➡賃上げ・雇用増➡消費増➡収益増」という好循環を見込めない。だから、真の「人手不足」と考えて求人を増やし、採用を増やす感じが出てこないのだ。

  • 正社員の求人数は、2025年7月以来、この9月で14ヶ月連続で前年割れしているし、アルバイトの求人数に限って言えば、もう3年近く前年割れが続いている。倒産件数だって、12ヶ月合計で見ると、2025年1月以来1万社を超え続けている。そして、その12ヶ月合計の前年比は、2026年入り後、尻上がりに上がっている(1月+2.6%➡2月+2.9%➡3月+3.5%➡4月+3.6%➡5月+4.8%➡6月+5.8%➡7月+6.2%➡8月+6.9%)。

  • マスコミは、日銀短観だけで景気(景況感)を判断し、「日銀短観、大企業製造業は6期連続改善し8年ぶり水準」などとはしゃいでいるが、「大企業非製造業の景況感は5期ぶりに悪化した」とか「先行きについては軒並み弱気」という側面を軽視している。そもそも、今後も利上げしたい日銀は自らの政策を断行するため、弱気の日銀短観は出せないという事情がある(支店長たちなどが忖度して対象企業に対しアンケート回答の内容を確認する)ほか、統計の連続性を重視するが故に「倒産しそうな企業はそもそも調査対象にしていない」という統計設計上の問題もある。

  • 上記に挙げたこうした統計を丹念に見ていくと、「じつは日本の景気は弱い」という可能性が見えてくる。唯一違和感があるのは、毎月勤労統計の「給与総額(前年比)」だ。2026年1月から実質賃金が連続でプラスに転じており、7月に至っては+4.7%という驚きの水準を示している。高市政権が「日本経済に対して強気になれる唯一の根拠」と言ってもよい。

  • しかし、毎月勤労統計には黒歴史がある。500人以上の事業所は、全数調査が原則なのに、東京都では対象 1464事業所の約1/3しか調査していなかったという不祥事だ。この扱いは2004年から2017年まで継続。統計法違反という評価も為された。そういう不信の目で見ていたところ、2026年9月26日の毎日新聞によれば、静岡県庁では、年1回行っている毎月勤労統計特別調査で、必要な訪問調査をせずにうその調査票を作成し提出していたなどとして、同月25日、統計調査員の70代男性を解任したと発表。要するに、調査しないで適当な数字を提出していたというのだ。

  • そもそも、毎月勤労統計が正しいと仮定すれば、給与総額が5%近くまで上昇しているのだから、収入や消費に関連する統計は良い傾向を示しているはず。しかし、日銀が公表している「生活意識に関するアンケート調査」によれば、「収入DI(=増えた-減った)」は2026年6月時点で▲10.2%ポイントであり、「減った」が多い。また、この1年間において目立った改善の兆しがあるわけではない(2025年9月▲12.9%➡12月▲11.5%➡2026年3月▲6.5%)。将来の収入に関しても類似の推移を観察することができる(2025年9月▲18.8%➡12月▲14.0%➡2026年3月▲10.7%➡6月▲15.5%)。

  • 消費にも勢いはない。8月の売上高前年比を見れば、ドラッグストア+3.1%、スーパー+2.6%、百貨店+2.6%、家電大型専門店+1.3%、ホームセンター+1.3%、コンビニ+0.5%という業態を問わない低迷ぶりであり、同月の消費者物価と比較すれば、数量ベースで見て前年比割れの業態すらすらありえる。というのは、消費者物価全体では+1.9%の水準にとどまるが、生鮮食品+6.0%、調理食品+3.3%、家具・家事用品+4.9%など+3%を超える商品も数多いからだ。

  • だから、家計調査が調査している家計調査(実質)は、2025年12月から2026年7月まで8ヶ月連続で前年を下回っているのだろう。だからこそ、推計値なので為政者の方針に忖度するための調整余地が大きいGDP(2026年4~6月期・2次速報・季節調整済み前期比)でも誤魔化しきれず、家計最終消費支出(持家の帰属家賃を除く)を▲0.1%にせざるを得なかったのだと思われる(本来なら、GDPの推計は家計調査をベースにするはずなので、もっと悪かった可能性大)。

  • いずれにせよ、俗に信じられている「サナエノミクスによって好景気が到来する」という予言は、下記の理由により、根拠が極めて薄いか、勘違いである可能性が高い。経営者であれば、あまり期待することなく、日々の経営努力を傾けるしかない。 ① 経営者たちは、「サナエノミクス」の登場によっても、将来の日本経済に自信が持てず、近未来のビジョンが描けないので、「雇用増➡収益増➡人手不足➡賃上げ・雇用増➡消費増➡収益増」という好循環を見込めていない。

    ② 上記①の効果が見られていない状況下では、「サナエノミクス」が唱えている「投資➡収益増➡人手不足➡賃上げ・雇用増➡消費増➡収益増」という好循環の成立は怪しい。 ③ そもそも、「サナエノミクス」が成立する重要な前提条件である「賃上げ・雇用増➡消費増」という極めて重要なメカニズムが、現状の経済情勢において確認できていない。

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