vol-1038:高市政権下でも偽装難民たちは全然焦っていない
更新日:5 日前
「難民申請中のクルド人が強制送還されると家族が散り散りになる」という記事が出たり、野党議員や人権派弁護士が「不法滞在者ゼロプラン」に反対したり、護送官付きの強制送還が前年比倍増などというニュースが流れているから、高市政権になって、「偽装難民問題」は急速に解決に向かっていると思っている方は多いだろう。
熱烈な高市首相支持者や「さな活」ファンの方々には厳しいお叱りを受けるかもしれないが、入管の現場を見ている者として、報道の熱気と、実態の乖離について記すことにする。
昨日4回目の「特定活動(難民申請中)」の申請をしたばかりの外国人が仕事を探しに来た。日本語はそこそこ話せるので色々と聞いてみたが、どう見ても「偽装難民」だった。明らかに「難民」の定義に当てはまらない方だ。
さすがに「ヤクザに追われている」とか「怖い人から借金した」などという一時期流行った陳腐な理由は言わないが、「難民である」という説明が一切できない。「私は refugee だ」と言い張るだけなのだ。
別に、その外国人ひとりだけの話ではない。先日、「特定活動(難民申請中」を3回申請した外国人が在留資格の変更申請をして不許可となり、「特定活動(帰国準備31日)」になった後、難民申請の窓口に行ったら、無事に難民申請は受理された。
またその前は、「難民申請(≠特定活動)が3回目という理由で、窓口で不受理になり、「特定
活動(帰国準備30日)」になったが、その期間中に在留資格の変更申請ができなかったため、入管の窓口で相談したところ、「短期滞在(30日)」が許可されて、その期間内に難民申請したら、無事に受理された。
要するに、「難民申請は3回でアウト」になっていないというのが入管の実態なのである。その証拠に、難民申請者に焦りはない。切迫感も危機感もない。彼らの実感は「何も変わっていない」もしくは「たまに何か言われる」と言う程度のことにすぎない。
実際の数値で見てみよう。まず、入管による違反調査の数値を確認する。月々では変動が激しくて趨勢がわかりにくいので、直近の12ヶ月合計の推移をみてみる。
【新規受理:直近12ヶ月合計】
2023.12 25,442件 2024.03 25,138件 2024.06 24,659件 2024.09 24,423件 2024.12 24,420件 2025.03 24,084件 2025.06 23,885件 2025.09 23,546件 2025.12 23,715件 2026.03 24,405件 2026.06 24,725件(前年比+3.5%)
どうだろう? 何か違和感を覚えるのではないか? この間、在留外国人の数は、毎年10%前後のスピードで増え続けている。それなのに、違反調査の件数は趨勢的に見れば、大きく変動していないのだ。確かに高市政権になってからは若干増えてはいるものの、2年前の水準に戻っただけである。
【在留外国人数】
2024.07.01 358.9万人
2024.12.31 395.7万人(前年比 +10.5%)
2025.07.01 395.7万人(前年比 +10.3%)
2025.12.31 412.5万人(前年比 +9.5%)
この数字を素直に見れば、「最近の外国人はルールを守るようになっている」「摘発に値するような入管法違反は減少している」という分析になりかねないが、それは実態とは異なる。冒頭で紹介した事例からもわかるように、入管の窓口は、未だに「入管法違反にならないように、3回超の難民申請を受理」したり、出国させなければならない「特定活動(帰国準備30日)」の外国人に「短期滞在」と在留資格を与えたり、敢えて放置することによって、「入管法違反」の調査件数を手控えているのではないか、という疑惑が拭いきれない。
外国人犯罪やオーバーステイが問題にされると必ず「入国警備官の人数が少ないから」という解説が為されるが、上記の数値が明確に物語っているように、入管は要所要所で手を抜いているのだ。
もっとも、出国命令や退去強制の件数(直近12ヶ月合計)を見てみると、ここ最近になって、退去強制の件数が増えてきている。この数値が入管の本気度を表していることを祈るばかりである。
出国命令 退去強制
2023.12 9,176件 7,826件
2024.03 9,909件 7,891件
2024.06 10,056件 8,160件
2024.09 10,064件 7,869件
2024.12 10,385件 7,627件
2025.03 10,318件 7,461件
2025.06 10,364件 7,191件
2025.09 10,033件 7,270件 2025.12 9,811件 7,725件 2025.03 10,006件 8,238件 2025.06 10,011件 8,607件
斜に構えた見方をするならば、「不法滞在者ゼロプラン」が目標として公表している数値は、「退去強制が確定した外国人数」(2024年末 3,122人)を2030年末までに半減させるというプランだから、「退去強制」の発令を手控えれば、簡単に達成できる数値でもある。だから、「退去強制」の数値が今後も増えていくか否かについては、注視することが必要だ。もしも、この数値が8,000件を割り込んでくるようであれば、入管という組織が、公表した数値を達成するために、退去強制を発付するのを抑える方策を講じた可能性が出てくる。
こういうことを言いたくなるのは、高市政権による外国人対策が、面倒くさい「現在の不法移民」の解決を避けて、実質的な先送り案である「将来の合法移民」に関する厳格化に固執しているからだ。現時点において入管法に違反している偽装難民やオーバーステイに対する本格的な対策を講じているようには見えない。
典型的な事例が、在留外国人による社会保険料未納問題である。厚生労働省はシステムを入管と共有し、2027年6月から社会保険の未納者については、在留資格の変更申請や在留期限の更新申請を不許可にするという。
方針が決まっているのであれば、どうして何もしないで待つのかがまったくわからない。いまだって、入管審査の実務では、申請者に対して社会保険料の支払実績を証明する書面を求めることは時折ある。それを定例にすればよいだけである。こんなことはすぐにできる。
どうも、高市政権は、マスコミ受けする「大技」にばかり注意が行き過ぎて、数多くの「小技」や「基礎訓練」で成り立っている日々の行政実務を変えるという発想が乏しいようだ。小外刈りで相手を倒し、袈裟固めで一本を取ればいいだけなのに、わざわざ「新しい必殺技」で倒そうとしているような感じがする。
立法が大事なのはわかるが、内閣総理大臣は「行政府の長」である。「官僚」という独特の人種で構成された組織を、縦横無尽で動かせてこそ、傑出したリーダーだと言える。夜な夜な「政策の勉強」をするのも大事だが、より求められるのは、「官僚機構という人間組織」を政策目的に即して、しっかりと動かす知恵と実行力だ。
外国人政策において重要なのは、「お勉強」ではない。「実行」と「結果」である。苦労して難民申請は「3回でOUT」というルールを作ったのに、それがないがしろにされているとすれば、大問題だ。一度「3回だから受理できない」として、「特定活動(出国準備)」に変更しておきながら、その後に難民申請の窓口に行ったら申請を受理する、などという理解不能な実務はすぐに止めてほしい。
つい最近も、「特定活動(難民申請中)」から「技術・人文知識・国際業務」への資格変更が不許可になった申請人は、一瞬のためらいも見せずに、難民申請のカウンターに向かい、受理された後すぐに「特定活動(難民申請中)」の在留資格を6ヶ月もらっていた。
アフリカ系のイスラム教徒が日本を目指す理由は、「フランスやイタリア、アメリカだとその国についたとたん、捕まって連れ戻されるが、日本だとそれはないと聞いたから」だという。そして、難民を支援する団体は「難民申請をして下さい」と教えるが、「難民申請が認められる確率は非常に低い」という事実は伝えないという。
「偽装難民」に対して甘い入管は「偽装難民」を呼び込む。「いざとなれば、難民申請すればいい」という逃げ道が常備されれば、観光客が平気でオーバーステイする。せめて、いま在留している「偽装難民」が震え上がるくらいの対応を、入管には期待したい。



