vol-831:「実務研修ガイドライン」公表までの経緯を知る
多くの日本企業は、新入社員に対して「実務研修」を課しており、外国人社員に対しても同様に「実務研修」が課されてきた。しかし、入管から明確なガイドラインが示されることがなかったため、外国人新入社員の「実務研修」は「不法就労」であると認定される可能性があるのではないかという指摘に係るリスクは、長い間払底されることがなかった。
この不安定な状況は、2020年4月に「技術・人文知識・国際業務の在留資格で許容される実務研修について」というガイドライン(以下「実務研修ガイドライン」という。)の公表によって、遂に解消することになる。「実務研修ガイドライン」が出るまでは、勉強不足の行政書士 などが「技術・人文知識・国際業務は、自然科学・人文知識の分野に属する技術・知識を要する業務に限られるから単純作業はできない」と吹聴する事例が少なからずみられたが、「研修として単純作業を行うことは問題ない」という法理が示されることになった。
これまでの経緯を振り返ろう。じつは、入管は、「長期的なキャリア形成のために、入社直後の実務研修を認める」という審査実務を20~30年続けてきた。というのは、日本企業が正社員を雇う場合、工場での生産活動への参加や店舗に派遣しての接客など現場の経験を積んだうえでキャリアアップを図らせるのが一般的な人事慣行だったからである 。逆に、「技術・人文知識・国際業務」の外国人社員に対して実務研修をすることが認められないということになれば、日本企業は外国人を「日本企業の正社員と同じ扱いをする正社員」として雇えなくなる 。そうなれば、折角招き入れた外国人留学生の日本国内での就職先を消失させてしまうことになり、在留資格制度は、致命的な制度上の欠陥を抱えることになる。
このため、入管は、行政書士からの問い合わせに対しては、上記の審査実務を口頭で回答していた ものの、文書化することには消極的な対応を続けた。しかし、問い合わせの増勢を受け、2016年3月に「就労資格の在留諸申請に関連してお問い合わせの多い事項について」を公表し、「採用当初のOJTについては、一般的には、業務習熟のために必要な研修として認められることとなります」と明記。その後も、政界や政策面からの要請に応えて、一部業界に関する「実務研修」を認めるガイドラインを公表していく。
そういう流れの中で、入管内部においても「実務研修」を「技術・人文知識・国際業務」の「従たる活動」として認めるという方針が固まっていき、先述したとおり、2020年4月に「実務研修ガイドライン 」の公表という形で結実する。この結果、ようやく、「技術・人文知識・国際業務」の中で、新入社員の「実務研修」が正式に認められることとなった。
しかも、画期的だったのは、「外国人が当該企業で就労・在留することが想定される期間全体を捉えた上で、その期間の大半を占めない実務研修は認められる」という考え方を明らかにした点である。従来、「実務研修」の期間については、「許可された在留期間」の大半を占めない、という見解が大勢であり、「許可された在留期間が1年の場合は3~5ヶ月未満」という解釈が相場だったが、「実務研修ガイドライン」によって、「技術・人文知識・国際業務」の在留資格を持つ外国人を10年を超えて雇用する意思と計画を持つ雇用主の場合、5年後に「自然科学・人文知識の分野に属する技術・知識を要する業務」で活躍してもらうために、それまでの間は実務研修を行うことができる、ということが明らかになった。この結果、外国人を直接雇用する日本企業にとっては、「技術・人文知識・国際業務」の外国人を採用しやすい環境が整備された。
「実務研修ガイドライン」の公表に踏み切ったのは、入管の英断であったと言ってよい。



