vol-1106:AIはAirbnb的なイノベーションを創れない
「イノベーション」の本質を理解するには、Airbnb が成功した経緯を調べることが役に立つ。じつは、Airbnb の誕生によって切り拓かれた市場は、それまでまったく存在していなかったマーケットだった。
Airbnbのライバルはホテル業界である。『ホテル業界の標準的な品質基準に照らせば、Airbnbははるかに劣った選択肢だ。ホテルの部屋でプライバシーを守られながら滞在するのではなく、見知らぬ人のアパートの床に敷かれたエアマットレスや簡易ベッドで寝るのに金を出す者などいるのだろうか』と訝られるのが関の山だった。ところが、Airbnbのサービスが始まると「エアマットレスや簡易ベッドで寝るのに金を出す者がおおぜいいる」ことが明らかになる。Airbnbの利用者のうち40%は、「Airbnbがなければ、旅行に出かけなかったか、知り合いの家に泊まっただろう」と答えている。また、貸し手であるホストのほとんどは、「Airbnbが出現するまでは、一部屋だけにしろ、家一軒にしろ、人に貸そうなどとは思わなかった」と証言している。
『Airbnbができる前、旅行者はホテルに高い部屋代を払う以外にほとんど選択肢はなく、不動産所有者は空き部屋を信頼できる相手に簡単に貸し出すことはできなかった。Airbnbは、ほかの人たちにはまったく見えなかった、未開拓の需要と供給に気づいたのだ。個人送迎サービスのLiftやUberにも同じことが言える。どこかに行きたい人と送りたい人をつなげるだけで数十億ドル規模のビジネスになると考えた人はほとんどいなかった。・・・隠れた真実の存在を信じ、それを探さなければ、目の前にあるチャンスに気づくことはできない』 (ピーター・ティール:ペイパル共同創業者)
Airbnbの場合、当時の宿泊業界で君臨していたグローバルなホテル・コングロマリットは、Airbnbを「脅威」とみなすことがなかった。実際、Airbnbのメンバーたちは、周りから「こんな会社を始めるなんてどうかしている。誰も利用するもんか。他人のアパートの一室を借りるなんて、まともじゃない奴だけだ」と馬鹿にされていた。しかし、そういう風に思われていたからこそ、宿泊業界の大手に対抗措置を講じられることなく、Airbnb は急成長し、たった創業8年目に時価総額が8兆円を超え、世界最大の宿泊サービス企業に成り上がることに成功する。
じつは、Airbnbが創業し、投資家たちに対して、彼らのビジネスモデルをプレゼンテーションしていたときに、その将来性を評価できた専門家は、それほど多くなかった。要するに、後発企業や新興企業が画期的なビジネスモデルを持ち込んだときに、その可能性を正当に評価できる競合企業は決して多くないのである。
Airbn bのアイデアは、創業当時、投資家や競合他社からまったく評価されなかった。というのは、「(赤の他人に部屋を貸す/赤の他人の部屋を借りるなんて)ありえないほどに筋が悪い」と考えられたからである。実際、Airbnb は、ベンチャーキャピタルから初期段階の投資を250回も断られている。同様に、グーグルは、創業当初に300回以上投資を断られている。同様に、Cisc oは80回、Skype は40回断られている(ありていに言えば「見る目」がなかった)。要するに、「イノベーティブなアイデアは、人から評価されない」ことを意味しており、逆説的に言えば、「人から評価されるようなアイデアは、イノベーティブではない」という事実を強く示唆している。
いま、AIブームが沸き起こっているが、AIは「学習データにない未知のパターンに弱い」から、AIでは、画期的な「イノベーション」を起こせない。将棋界初の「永世七冠」を成し遂げた羽生善治は、AI将棋を研究した結果、『AIは基本的に、データの蓄積から得られたやり方、リスクが少ないやり方を推奨します。そこは負の側面でしょうね。使えば使うほど、だんだんリスクに向き合わなくなってしまう恐れがある。将棋に限らず、未知なるものやリスクと向き合った人たちがいたからこそ、様々な物事の発展や進歩があったわけですが、AIにはそこにストップをかけてしまう側面がある』と語っている。



