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vol-654:革新的な技術に依拠しないイノベーションを追求せよ

2020年6月4日
読了時間: 5分
  • 日本では、「イノベーション=技術革新」と勘違いしている人が多い。しかし、ヤマト運輸が創始した「宅急便」は、まがうこと無き「イノベーション」である。ヤマト運輸の「イノベーション」は、これまでになかった「新技術」を用いたものではない。ヤマト運輸は、これまでに世の中に存在していなかった「サービス」を提供し、「新業態」を創り上げたのだ。

  • 「宅急便」は、「革新的な輸送技術」を必要としたわけではないが、ヤマト運輸以外は誰も思い付くことがなかった「業態」だったからだ。1970年代、日本における輸送市場は、

     ①商業貨物関連と

     ②個人生活関連

    の市場に二分されており、②個人生活関連では、

     ⓐ貸切輸送(引越等)と

     ⓑ小口輸送

    に需要が分かれていた。当時、「ⓑ小口輸送の市場」で輸送事業を営んでいたのは郵便小包と国鉄小荷物だけ。ヤマト運輸の小倉昌男は、「無謀」「失敗必至」という批判や冷笑に怯むことなく、メインとして営んできた「①商業貨物関連のビジネス」を棄てて、1976年1月に「宅急便」という「商品」を引っ提げて、この市場への新規参入を断行する。小倉昌男が切り拓いた「宅急便」は、創業以来手掛けてきた一般のトラック輸送とは異なるまったく新しい「業態」だった。

    『宅急便については、トラック運送業界の中ですら一般の貨物積み合わせの運送と同じ業態だと思っている人がいるのには驚いてしまう。宅急便は、商業貨物の積み合わせ輸送とは全く違う業態である。・・・それまでの小口貨物の積み合わせ輸送とは根本から違う新しい業態の開発を私は目指してきた。・・・宅急便が始まるまでは、法的にも実際的にも、貨物輸送の業態は路線トラックと貸切(区域)トラックの二種類だけだった。宅急便はそのどちらとも違う新しい業態だったのである』 (小倉昌男:「宅急便」創業者)

  • じつは、「革新的な技術」に依拠しない「新業態」は「宅急便」だけではない。小売業界で言えば、ドン・キホーテが創り上げた『時間消費の“深夜営業態”』は、「革新的な技術」に依拠しない「新業態」に相当するし、製造業では、アイリスオーヤマが創り上げた「メーカーベンダー」が同類。ちなみに、ドン・キホーテが追求している「新業態」のコンセプトは、「より便利に・より安く・より楽しく」であり、「革新的な技術」を何ら拠り所にしていない。「小売業は大衆演劇である」と明言する創業者の安田隆夫は、入場料無料の「買い物の劇場」を演出することにより、似通った店舗になりがちの小売業界で異彩を放ってきた。

    『世間に「便利な」店はあまたある。「安い」店もある。さらに「便利で安い」店もあるだろう。しかし、私に言わせれば、それは「1+1=2」の効果を生むに過ぎない。「便利で安い」に留まらず、「楽しさ」を付加することにより、「1+1=∞(無限大)」の相乗効果を発揮し、初めて深夜営業も可能になる』 (安田隆夫:ドン・キホーテ創業者)

  • 『家電は成熟商品で一見すると、用途、機能に関しては開発し尽くされている。しかも、台湾や韓国のメーカーの格安商品に押されている。しかし、ユーザーの利用シーンの中から不満を見つけて、それを解消する価値を提供すれば、まだ伸びしろは大きい』 (大山健太郎:アイリスオーヤマ創業者)

  • また、アイリスオーヤマが体現している「メーカーベンダー」は、「問屋の機能を持った製造業」。この「新業態」の売りは、「革新的な製造技術」ではなく、メーカーが「問屋機能」を持つことに特徴点がある。「メーカーベンダー」という「新業態」を選択した場合、問屋としての役割を果たさなければならなくなるため、品揃えの多さや棚を抑えるための店舗フォローが必須になり、自社で製造していないものまで仕入れて来なければならなくなる。その一方、「問屋が自社製品を扱ってくれない」という「問屋の壁」という大問題 ――「確実に売れるもの」を求める問屋は、アイリスオーヤマが企画・開発・販売している「需要創造型の新商品」を扱いたがらない ―― は氷解する。単なる「下請けメーカー」から「メーカーベンダー」へと、アイリスオーヤマを変革させた大山健太郎は、『マーケティング力を強化するための仕組み』であると解説している。

    『需要と供給のバランスで動く市場経済と一線を画すためには、自ら需要を生み出す市場創造型の製品が必要です。それを「ユーザーイン」という言葉に昇華し、経営の軸に据えます。・・・ただし、需要創造型の製品は過去の実績を示せないため、確実に売れるものを求めたがる問屋は取り扱いに難色を示しました。そこで私は新興勢力のホームセンターとの直接取引を狙い、問屋機能を包含した「メーカーベンダー」という業態を確立しました』 (大山健太郎:アイリスオーヤマ創業者)

  • 通常、問屋を中抜きするメーカーや小売店は、最終価格を下げることを狙うケースが多いが、アイリスオーヤマの場合は、『問屋に依存することによる販路消失リスク、問屋に依存しないことによる市場創造力が第一義』。アイリスオーヤマを変革させた大山健太郎は、『消費者が求めるものを、流通の都合で欠品することはしたくない。消費者が潜在的に欲しているものを開発して届けたい。マーケティング重視の経営を貫くには、自らの業態を変えるしかないと判断したのです。また、店頭活動にまで責任を持つということは、生活者の目線がますます大切になります。消費の最前線である売り場の状態を把握し、得意先と信頼関係を築き販売情報を受け取ることにより、生活者のニーズを迅速に製品開発や販促提案に反映できます』と語っている。

  • 「革新的な技術」に依拠しない「新業態」は、ヤマト運輸やドン・キホーテやアイリスオーヤマにとどまらない。星野リゾートは、単に泊まるだけの「宿泊業」ではなく、地域性・文化・体験を織り込んだ「滞在のデザイン業(地域の物語に浸る体験)」に変革することで成功。また、圧倒的な低価格で高品質のイタリアン料理を提供することで有名なサイゼリヤは、業務自体を簡素・効率的・本質的に設計し直すという実務的な経営思想により、唯一無二の業態を築いている。

  • 「イノベーション=技術革新」という固定観念を覆す経営者が、いま求められているのだ。

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